臓器移植後のシャーガス病、2006年−米国・カリフォルニア州ロサンゼルス

(Vol.27 p 241-242:2006年9月号)

シャーガス病は、寄生虫であるクルーズ・トリパノソーマ(Trypanosoma cruzi )で起こる感染症で、サシガメの糞便を介して伝播するが、先天性感染、輸血や臓器移植による伝播もある。未治療では生涯感染が持続するが、大多数は無症候であり、診断がなされない。本稿では、2006年2月にロサンゼルスの2つの郡立病院から報告された、心臓移植による急性シャーガス病の2例について述べる。

症例1:特発性心筋症の64歳男性が2005年12月に心臓移植を受けたが、2006年2月に食欲不振、発熱、下痢のために再入院となった。末梢血塗抹検査、血液培養、心内膜生検でT. cruzi が検出された。患者への問診、および臓器の調達・移植の記録からは、感染のリスク因子は特定できなかった。患者はT. cruzi 抗体陰性であったが、PCRでT. cruzi DNAが陽性であり、最近の感染であることが示された。ニフルチモックスによる治療の開始後、原虫血症は急速に消失したが、2006年4月、急性拒絶反応の合併症のために死亡した。

心臓ドナーおよびレシピエントに用いられた血液製剤のドナーについては、検査可能であった全員において、免疫蛍光法(IFA)および放射免疫沈降法(RIPA)でT. cruzi 抗体が陰性であった。しかし、臓器ドナーはRIPAで陽性、IFAで境界域陽性であった。臓器ドナーは米国生まれであるが、メキシコのT. cruzi 流行地域への旅行歴があった。

症例2:虚血性心筋症の73歳男性が2006年1月に心臓移植を受けたが、発熱、倦怠感、腹部発疹のために、2006年2月に再入院となった。薄層血液塗抹検査、血液培養でT. cruzi が検出された。臓器の調達・移植の記録からは、感染のリスク因子は特定できなかった。患者は抗体陰性であったが、PCR陽性であり、最近の感染であることが示された。ニフルチモックスの投与10日後に、発疹と原虫血症は消失した。心内膜生検を何度か行ったがT. cruzi は検出されず、IFA は陰性のままであった。2006年6月に心不全を主因として死亡したが、剖検は行われなかった。

症例1と同じ方法で感染源の調査を行ったが、血液ドナーは、検査可能であった全員がT. cruzi 抗体陰性であった。しかし、エルサルバドル生まれで死亡時はロサンゼルスに住んでいた臓器ドナーでは、RIPA陽性、IFA陰性であった。

いずれの事例でも、同じ臓器ドナーから3人が実質臓器を移植されているが、すべてがIFA、PCRともに陰性であり、現在経時的調査が続けられている。記録を調べたところ、どちらの臓器ドナーにも過去の供血歴はなかった。

今回の2例は、米国での実質臓器移植によるT. cruzi 感染としては4例目と5例目である。ロサンゼルス郡のようにシャーガス病流行国からの移住者が多い場合、T. cruzi 感染率は高いと思われる。現在、T. cruzi を検査スクリーニングする方針はなく、スクリーニング検査自体も認可されたものはない。臓器レシピエントや受血者に原因不明の合併症が生じ、より多い原因が除外されたのであれば、T. cruzi 感染を強く疑い、末梢血塗抹標本の顕微鏡検査を行うべきである。

(CDC, MMWR, 55, No.29, 798-800, 2006)

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