2006年の感染症発生動向調査事業の報告患者数をみると、長野県における手足口病の定点あたり届出数は、第22週から増加傾向(0.25人、前週比2.78倍)がみられ、第29週(2.45人、前週比1.07倍)以降も増加が続いている。報告された患者563人(第1週〜第29週)の年齢分布をみると、3歳106人(18.8%)が最も多く、次いで4歳98人(17.4%)、2歳87人(15.5%)、5歳78人(13.9%)で、5歳以下が80%以上を占めていた。また、第29週の定点あたり届出数を地区別にみると、松本地区が8.5人と最も多く、次いで諏訪地区が2.8人、飯田地区が2.4人であった。
6月以降手足口病と診断され、当所に搬入された咽頭ぬぐい液は20検体で、そのうちEV71が15検体、CA16が1検体、計16検体(80.0%)からウイルスが分離された。また、EV71は無菌性髄膜炎と診断された患者2名由来の髄液及び糞便各1検体からも分離されており、EV71の分離は計17検体となった。
ウイルス分離にはVero9013、RD-18s、Vero、HEp-2細胞を用い、1〜3代まで継代培養した。EV71が分離された17検体はいずれもVero9013細胞に高い感受性を示し、そのうち15検体は0〜10日遅れてRD-18s細胞にもCPEを認めた。国立感染症研究所より分与された抗血清(CA10、CA16、EV71)を用いて中和法により分離株の同定を行ったところ、いずれも抗EV71血清で容易に確定できた。また、培養液上清を用いて、VP4-VP2領域を増幅するEVP4及びOL68-1プライマーによるRT-PCRを試みた結果、いずれも650bpの特異バンドが認められた。さらにVP4-VP2領域の208bpを増幅するEV71プライマーペアによるNested-PCRを行ったところ、いずれも特異バンドが確認された。
全国的にEV71は数年間隔で流行が繰り返されており、前回流行年(2003年)の長野県における手足口病患者からのEV71分離率は年間で33.3%(4/12株)であったが、それに比べて本年は93.8%(15/16株)で、著しく高率となっている。
EV71は従来から髄膜炎等、中枢神経疾患を起こす原因として注目されており、今回、無菌性髄膜炎2症例中1症例の髄液からEV71を分離し、EV71感染による髄膜炎と確定された。また、別症例の糞便からもEV71が検出されている。
2006年には愛知県、宮城県でもEV71の分離が報告されている。
長野県では今後もEV71を主体とする手足口病の流行が継続することが予想されるので、充分な注意喚起が必要である。
長野県環境保全研究所 保健衛生チーム 感染症ユニット
高橋夕子 畔上由佳 粕尾しず子 中沢春幸 小林正人 和田啓子