2006年6月、福岡市内の3つの高校(A、BおよびC校)において、腸管出血性大腸菌による集団感染が発生したのでその概要を報告する。
2006年6月27日、城南区保健福祉センターに、A高校から腹痛、下痢症状を呈した生徒が複数名いるとの情報が寄せられ、同日、医療機関よりA高校の生徒2名からO157を検出したという届出があった。また、翌28日には、B高校から中央区保健福祉センターに、腹痛、下痢症状を呈した生徒が複数名いるとの情報が寄せられた。
保健福祉センターの調査により、A、B両校の有症者は、A校の1名を除くと、県外で開催された球技大会(6月16日〜19日)に参加した部員および随行者であり、両校の部員の多くは寮生であった。両校とも部員および随行者の発症日の大半は、6月22日〜23日に集中していた。調査を進めていくと、A、B両校のほかに、C校も同球技大会に参加していたことが判明したが、C校には発症者がいなかった。
3校の宿泊施設は同じDホテルであったが、A、B両校の部員の多くが寮で生活しており、寮内での食中毒あるいは人→人感染の可能性も考えられたため、球技大会に参加した3校の部員および随行者に加えてA、B両校の寮生の検便と寮の検食を含めた施設調査を実施した。
細菌検査の結果、O157(VT2)が3校の14名(A校が7名、B校が6名、C校が1名;A校の1名を除く13名は全員が大会参加者)から検出されたが、検食や施設のふきとりからは検出されなかった。なお、Dホテルを所管する保健所の調査では、従業員1名からO157(VT2)が検出された。
患者由来14株および従業員由来1株の計15株について、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析を実施した(表)。9株(A高校の6名、B高校の3名)は同一のPFGEパターン(以下パターン1)を示し、6株(A高校の1名、B高校の3名、C高校の1名、従業員1名)は別の同一パターン(以下パターン2)を示した。
球技大会に参加した部員および随行者の共通食はDホテルの食事だけであった。しかし、FCI-ST3株が分離されたA校の有症者(6月27日発症)は寮生ではあったが、別の運動クラブに所属しており、球技大会参加者ではなかった。また、FCI-ST8株が分離されたB校の有症者(6月25日発症)は、球技大会に参加したが日帰りしたためDホテルを利用していなかった。
FCI-ST3株とFCI-ST8株が分離された2名の有症者を除いた場合、流行曲線と行動調査の結果から単一曝露(食中毒)であることが強く示唆されたが、感染源や汚染源を特定することはできなかった。B校で分離されたO157はパターン1および2の2種類であったが、A校で分離されたO157はFCI-ST3株を除くとすべてパターン1であった。今回の検査では、A校部員からパターン2のO157を分離できなかった可能性が考えられ、FCI-ST3株とFCI-ST8株が分離された2名の発症は、それぞれの寮内における人→人感染によるものではないかと推定された。
福岡市保健環境研究所
瓜生佳世 真子俊博 川内良介 馬場 愛
江渕寿美 樋脇 弘 吉田眞一