中国渡航後に肺炎を発症した患者からのインフルエンザウイルスA/H1N1型の検出−埼玉県

(Vol.27 p 232-232:2006年9月号)

埼玉県内における2005/06シーズンのインフルエンザウイルス分離は、第17週のB型ウイルス(IASR 27: 151, 2006)が最終であったが、今回、第28週に採取された中国渡航後の肺炎症例の検体からA/H1N1ウイルスを検出したので概要を報告する。

患者は55歳男性で、2006(平成18)年7月6〜9日の間に中国広東省深セン(シェンチェン)地区を旅行後に帰国した。渡航中に鳥との接触は無かった。9日より咳、血痰等の症状が出現し、翌日に発熱(38℃)し、受診した医療機関において肺炎と診断され入院した。医療機関でインフルエンザ迅速診断キットによりA型インフルエンザ陽性が確認された。

WHOによれば上述の深セン地区において6月にH5N1亜型鳥インフルエンザのヒト感染例が非公式ながら報告されている。本症例の患者は鳥やH5感染者との接触歴は無かったが、念のためにH5ウイルスも含めたインフルエンザウイルスの検査を実施することとして、当該医療機関管轄保健所により衛生研究所へ検体(咽頭ぬぐい液および鼻腔ぬぐい液)が搬入された。

当所では「病原体検査マニュアル高病原性鳥インフルエンザ(2006年6月改定)」に基づき、A型M遺伝子、H5、H7、H1、およびH3亜型用プライマーを用いてOne Step RT-PCR法による検査を実施し、咽頭ぬぐい液検体からA型M遺伝子およびH1遺伝子の目的バンドを検出した。それらはダイレクトシーケンスによりA型M遺伝子およびH1遺伝子であることを確認した。他の遺伝子は不検出であった。

次にMDCK細胞によるウイルス分離を試みたところ、咽頭ぬぐい液検体を接種した細胞においてインフルエンザ様のCPEを認めたので、その培養上清を用いて国立感染症研究所インフルエンザウイルス室から配布された2005/06用同定キットによる赤血球凝集抑制(HI)試験を実施した。その結果は、A/New Caledonia/20/99(ホモ価640)抗血清に対してHI価320、A/New York/55/2004(同1,280)、B/Shanghai(上海)/361/2002(同640)、 B/Brisbane/32/2002(同5,120)の各抗血清に対してHI価<10であり、分離ウイルスはAH1型インフルエンザウイルスであることを確認した。さらにRT-PCRによりN1遺伝子を確認し、分離ウイルスをA/H1N1インフルエンザウイルスであると同定した。分離ウイルスの遺伝子解析を現在実施中である。

なお、WHOのFluNetによれば2005/06シーズンに中国では主にA/H1N1およびB型が分離されており、また、本稿の患者の渡航時期にはA/H1N1ウイルスの流行がhigh activityであったことが報告されている。

近年、国内における非流行期のインフルエンザウイルス分離報告や、海外からの持ち込み事例の報告が各地からあり(IASR 26: 243-245および302-304, 2005)、年間を通じて予断が許されない状況となっている。WHOの情報によれば、本稿の患者の渡航先である中国では、ヒトへのH5N1ウイルス感染確定症例数20(うち死亡例13)を数えており、日本国内へのH5N1ウイルスの持ち込みの可能性も常に念頭に置くべきである。したがって、各地方衛生研究所においてはH5N1ウイルスの迅速な検査体制の整備を進めると同時に、1年を通じたインフルエンザの動向監視を継続することが重要である。

埼玉県衛生研究所ウイルス担当
島田慎一 河橋幸恵 篠原美千代 内田和江 土井りえ 河本恭子 宇野優香
清水美穂 菊池好則

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