群馬県内の2つの保育園で発生した腸管出血性大腸菌(O26)の集団感染例

(Vol.27 p 233-235:2006年9月号)

2006年6月に群馬県内A町の保育園で、7月にB町の保育園で腸管出血性大腸菌O26:H11、VT1産生株による集団感染が発生したので報告する。

事例1(A保育園):6月3日、2歳児(5月25日より水様性下痢便、5月29日より血便を認めたため医療機関に受診)が腸管出血性大腸菌(O26:H11、VT1産生)感染症であるとの届出が保健所にあり、感染症関連法令にのっとり接触者調査・消毒等を実施した。6月8日、同園に通園する3歳児(6月3日より水様性下痢便、腹痛、発熱により医療機関に受診)がO26:H11、VT1産生株による腸管出血性大腸菌感染症であるとの届出があった。同施設に通う2児に同じ血清型および毒素型の腸管出血性大腸菌感染症が発生したため、感染症および食中毒の両面を疑い、対策を講じた。

第1回目の検便を6月12日〜16日に全園児(175名)、全職員(23名)、園児家族で心配な者(7名)について保健所および医療機関で実施したところ、11名の園児からO26:H11、VT1産生株が検出された。職員等は全員陰性であった。保育園は6月15日〜24日まで休園し、園内消毒の実施(6月19〜20日)、保育園職員を対象に衛生講習会(6月22日)を行った。園を再開するにあたり、第2回目の検便を6月19日〜22日に実施したところ、1名の3歳児(第1回目検便陰性、無症状)から同腸管出血性大腸菌が分離された。給食の保存検体(9検体)および厨房内・施設内のふきとり(9検体)からは同腸管出血性大腸菌は検出されなかった。本集団発生によって同腸管出血性大腸菌が検出された14名の罹患園児の結果は表1のとおりで、8名が有症者(軟便5名、腹痛3名、水様性下痢2名、血便1名、嘔吐1名、発熱1名)、6名が無症状者であった。罹患率は1歳児が22%(4/18)、3歳児が18%(8/45)と高率であった。また、本事例での入院患者は無かった。さらに、罹患園児の家族・接触者検便結果も陰性であった。なお、6月26日より保育園は再開した。

事例2(B保育園):7月4日、3歳児(6月28日より下痢便を認めたため医療機関に受診)が腸管出血性大腸菌(O26:H11、VT1産生)感染症であるとの届出が保健所にあり、感染症関連法令にのっとり接触者調査・消毒等を実施した。A保育園と同様に原因菌がO26:H11、VT1産生株であること、患者が保育園児であること、6月19日から自設のプールでの水遊びを開始していたこと、および保育園等における疫学調査の結果等から、感染症集団発生を疑い、対策を講じた。

第1回目の検便を7月5日〜7日に全園児(139名)、全職員(22名)について実施したところ、23名の園児からO26:H11、VT1産生株が検出された。職員は全員陰性であった。保育園は7月10日〜17日まで休園し、園内消毒の実施(7月10〜12日)、保育園職員を対象に衛生講習会(7月14日)を行った。初発患者を含む24名の罹患園児の家族・接触者検便(79名)を実施したところ、4名(4家族)から同腸管出血性大腸菌が分離された。この4名は、園児の母2名(いずれも軟便の症状あり)、園児の姉1名(腹痛、下痢症状あり)および園児の弟(軟便の症状あり)であった。保育園を再開するにあたり、第2回目の検便を7月14日〜15日に実施したところ、3名の園児(第1回目検便陰性、無症状)から同腸管出血性大腸菌が分離された。この3名の園児の家族・接触者検便(13名)を実施したところ陰性であった。本集団発生によって同腸管出血性大腸菌が検出された26名の罹患園児の結果は表2のとおりで、16名が有症者(軟便10名、腹痛6名、水様性下痢6名、発熱2名)で10名が無症状者であった。罹患率は3歳児が47%(18/38)と高率であった。また、本事例での入院患者は無かった。なお、7月18日より保育園は再開した。

事例1と事例2から分離された病原体の特徴:事例1および事例2から分離された腸管出血性大腸菌O26:H11、VT1産生株について、薬剤耐性試験およびパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による遺伝子解析を実施した。事例1の分離菌株はアミノベンジルペニシリンに耐性を、事例2ではテトラサイクリンおよびストレプトマイシンに耐性を示した。また、PFGE像(図1)においても、事例1および事例2から分離された菌株の遺伝子パターンは異なっていた。

両事例とも、探知は有症患者の検便によってO26:H11、VT1産生株を分離したことによる医療機関からの届出であった。しかしながら、両事例ともに無症状者が多く、罹患者の多くは検便で本菌が分離されることによって確定診断された者であった。また、有症者であっても症状が軽い者が多く、軟便、腹痛、水様性下痢等であり、医療機関に受診している園児は少なかった。両事例から分離された菌は薬剤耐性やPFGEの遺伝子解析結果から、異なる由来であることが推測された。本発生事例をとおして、O26は症状が軽度であるがゆえに、探知が難しく、さらに、検便実施により多くの園児が感染していたことが判明した。また、自分で排泄を訓練する時期である3歳児が高い罹患率であることが両事例に共通していた。今後、O26による腸管出血性大腸菌感染症については病原性を考慮にいれ、的確な防止策を講ずることが必要であるとともに、園児の排泄時の取り扱い、おむつの取り扱い、および季節時に行われる自設プールの衛生管理等を含む衛生教育を徹底することが本感染症の予防・防止のうえで重要であると思われた。

伊勢崎保健福祉事務所 原まち子 市毛千鶴子 佐藤好美 栗原修一
前橋保健福祉事務所 赤見まり子 長井二郎
藤岡保健福祉事務所
立石孝枝 白石直美 後藤清乃 湯本二三男 轟 公之 早乙女千恵子
高崎保健福祉事務所 福田久美子 邊見春雄
群馬県衛生環境研究所
高原力也 塩原正枝 池田美由紀 黒澤 肇 森田幸雄 加藤政彦

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