2006年に千葉県では麻しんの流行があり、感染症発生動向調査の小児科定点報告数は、第20週以降全国で最多の状況が続いた。当保健所管内においても4月末〜5月末にかけて高等学校における麻しん集団感染事例を経験したのでその概要について報告する。
5月9日習志野保健所に、A高校(生徒数844名、教職員56名)から、生徒19名が発熱、カタル症状(眼脂、鼻汁)等の症状で欠席しており、うち2名が麻しんと診断されているとの情報提供があった。集団発生を疑い学校側と協力して発症者の把握を図るとともに、発熱者の早期受診勧奨および登校自粛要請、学校行事変更、職員・生徒・保護者への情報提供、ワクチン接種勧奨等の拡大防止対策を行った。
また、市、教育委員会、地区医師会等と対策を協議するとともに、市中における感染拡大の有無を把握するため、該当市内の全医療機関を対象に、4月16日〜5月27日までを対象期間とした麻しん患者の全数調査を実施した。
4月22日〜5月31日までの欠席者は95名で、全例が37℃以上の発熱を有し、このうち、医療機関で麻疹と診断された者(麻しん症例)は33名(ワクチン接種歴の内訳は、ワクチン既接種者26名79%、未接種者5名15%、不明2名6.1%)であった。麻しん症例の発症日推移をみると(図1黒部分)、index caseと思われる例が4月22日に発症しており、医療機関で麻しんと診断を受け4月26日〜5月2日まで休んでいたことが判明した。ここから学校の場でのみ感染が拡大したと仮定すると、探知日には既にニ次感染の発症ピークが過ぎており、このときの接触者が潜伏期を経て、その後、三次感染者として発症したが小規模に留まったと考えられる。
初発と考えられた例は1年生で、クラブには所属しておらず、残りの32例は1年生14例、2年生10例、3年生7例、教職員1例で、所属クラブは10以上に及び、特定のクラス、クラブへの集積は認められなかった。また、ニ次感染が起こったと考えられる期間に集会などの学校行事はなく、感染経路は不明であった。一方、麻しんと診断されなかった有熱者の発症日推移をみると(図1白部分)、麻しん症例とピークがほぼ一致し、これらの多くは麻しんが関与している可能性があると推測された。保護者および本人の同意が得られた有熱者3名から咽頭ぬぐい液およびペア血清の検査を行ったところ、ペア血清で麻しんPA抗体価の有意な上昇が2名に、うち1名でRT-PCR法でD5型の麻しんウイルスが検出され、これら2名は麻しんと確定診断した。全校生徒で麻しん罹患あるいはワクチン接種状況が明らかな者802名のうち、既罹患者6.2%、ワクチン接種者92%、未罹患・未接種者2.2%で、麻しん患者の発生率は、それぞれ0%、3.5%、28%であった。
最終接触5月25日以降は麻しん患者の出現を4週間認めなかったため終息とした。麻しん患者は、いずれも軽症者が多く、入院は精査のための1名のみであった。今回、典型的な症状がなく、ワクチン既接種・有熱者で麻しんの診断がなかった者も感染源となりえた可能性が考えられる。期間中、市内の麻しん患者調査の結果では、4名が報告されたのみで感染症発生動向調査の結果と合わせて、地域での明らかな感染拡大は無かったと思われた。
今回の事例で認められた多数のワクチン既接種者の麻しん罹患は、ブースター効果の減少に起因する抗体価の低下によるものと考えられる。今年度から開始された「2回接種法」の効果は被接種者が成人するまで期待できず、集団生活の場である学校での麻しん発生早期探知は、感染拡大を防ぐ上で非常に重要である。
千葉県衛生研究所感染疫学研究室
一戸貞人 三瓶憲一 齋加志津子 小倉 誠
同 ウイルス研究室
篠崎邦子 小川知子 岡田峰幸 吉住秀隆 窪谷弘子
千葉県習志野健康福祉センター
野田秀平 松井通子 小山早苗 飯高 章 井上孝夫