2006年4月〜7月に流行した千葉市の麻疹について

(Vol.27 p 226-227:2006年9月号)

千葉市医師会では、2002(平成14)年より麻疹小委員会を組織し、麻疹対策を積極的に行ってきた。2003(平成15)年6月には市内麻疹全数把握サーベイランス事業(内科・小児科・皮膚科を対象:以下、医師会麻疹サーベイランス)を立ち上げ患者発生の迅速な情報把握と対応に努め、また多くの機会を利用して予防接種率の向上にも努めてきた。2006年4月〜7月にかけて千葉市内で発生した麻疹の集団発生、小流行に際しても医師会麻疹サーベイランスが機能し患者発生を早期に把握でき、感染経路の推測等にも役立った。ところがいざ流行に直面してみると、感染拡大防止策については、行政、医師会、教育現場などの足並みをそろえることが容易ではなく、集団発生をした学校現場に混乱を引き起こさせてしまったなど、様々な問題点も一方では浮き彫りとなった。本稿において、反省を含め、千葉市における麻疹流行の現状と経緯を報告する。

今回の流行の状況と特徴:2006年4月、茨城県内での麻疹流行発生とほぼ同時期に千葉市内の私立A大学学生(茨城県在住者)が発端者となり、同大学の野球部員を中心に11人が麻疹を発症した。次に5月になり公立B小学校でも集団発生が見られた。ここへの感染経路は不明だったが、その後B小学校のクラスメート(1年生)を中心に21人の麻疹患者が発症した。また、私立C高校でもA 大学在学中の兄から感染した生徒を発端とし最終的に43人が発症した。集団発生は、6月末のもう一つの高校で見られた13人を最後に2006年8月現在、終息している。千葉市内では、これらの集団の他に散発例も見られたが、今回は乳幼児での集団発生がなく、流行の中心は15〜17歳の高校生で、発症者全体の33%を占めた。その他成人での発症者も多く見られた(19%)。また、発症者の中における麻疹予防接種済者は68%にのぼり、secondary vaccine failure (SVF)の症例が多いと思われるのも、今回の流行の特徴であった。

学校での流行は夏休みに入り収まったようであるが、成人での発症は7月末になっても散発的に報告されており、千葉市としての麻疹終息宣言はいまだに出せる状況にはない。

結局、医師会麻疹サーベイランスにより得られた情報では、7月末現在の患者(疑い含む)報告は128人、そのうち、抗体検査、臨床症状、周囲へ(から)の感染状況などから麻疹と判断された例は85例であった(残りの43例の内訳;その後の経過不明例24、IgM陰性16、経過から否定3)。

千葉市での対応:千葉市医師会では、前述したとおり、医師会による麻疹全数把握サーベイランスを行ってきた。今回の流行も、この医師会麻疹サーベイランスで発生情報をいち早く掴むことができた。この情報は医師会から保健所に報告し、保健行政としての感染防止対策をとるように依頼した。それをうけて、保健所が学校現場などから情報収集し、対策を実施した。以下実例を呈示する。

公立B小学校の場合:1例目が5月9日に発熱。9日後の5月18日、同じクラスで9人の発熱者が確認された。翌19日、保健所長、学校長、養護教諭、千葉市医師会感染症対策委員(医師、教育委員会ら)により、緊急対策委員会を開いた。保護者への麻疹流行の通知、予防接種未接種者の把握および接種勧奨、感染拡大防止策が話し合われた。この数日後に運動会が迫っていたが、学校長の英断により開催が延期された。また、それ以降の校内集会や校外活動の中止なども検討された。教育委員会・保育課を通じて、市内の全小中学校、保育所に、麻疹流行と予防接種勧奨のお知らせをそれぞれ配付することが決まった。B小学校の予防接種未接種者は24人おり、接種勧奨後接種が確認できたのは6名のみである。未接種者への緊急無料接種の提案もあったが実現しなかった。

私立C高校の場合:1例目が5月11日に発熱。11日後の5月22日、16人が発熱で欠席、4人が早退という集団発生の情報が入った。保健所が学校を訪問、現状把握につとめた。しかし、翌日にはさらに6人が発熱し、患者数が一気に20数人を超えたため、学校現場は混乱を極めた。保健所による情報収集も、その時点ではまだ決まった様式がなく、学校現場への問い合わせや指示が頻繁となり、養護教諭の業務は非常に煩雑となった。それに加えて校医が遠方在住であったため、流行情報が正確に届かず、早期に適切な対応ができなかったことも混乱の一端となったと思われる。また、患者が受診した医療機関ごとでの診断精度、登校許可の基準に大きな差があり、まだ感染性がある(発疹が出現中)時点で登校が許可された例もあったという。適切な医療情報が提供されず、学校現場からは医療関係者への不満の声も漏れ聞こえてきた。6月1日、学校医の判断によって予防接種未接種者21人への緊急集団接種が行われ、ようやく発生は終息に向かった。

医師会として:迅速な感染防止策がなかなか進まないのに焦りを感じて、校医や学校現場に麻疹流行への危機感を持ってもらうのが急務と考え、6月12日、緊急講演会を開催した。千葉県衛生研究所一戸室長には麻疹の臨床について、国立感染症研究所多屋室長には麻疹発生時の対応について茨城での対応策を例に、講師としてお話しいただいた。この会への参加者は、医師会関係者101名、学校関係者85名ら全部で200名を超え、麻疹への問題意識が高まっていることをうかがわせた。“一人出たらすぐに対応”、という国立感染症研究所発表のキャッチフレーズは、麻疹対応に追われている各部署のスタッフの心に響いたと思う。

反省と今後の対応

1.麻疹発生時対応マニュアル:今回の麻疹流行では、対応にあたる医師会、健康医療課、保健所、教育委員会、保育課、などの各部署の意志統一に手間取り、結果として現場を混乱させてしまった点が反省される。

この経験を活かし、千葉市では、患者発生が把握された後、迅速な対応がとれるように麻疹発生時対応マニュアルを作成することとした。

医師会、保健所、教育委員会、保育課(幼稚園は県の管轄下)がそれぞれで具体的対応策のマニュアル作成をし、それらをまとめ(医師会のHPからダウンロードできるようにすることを検討中)、各部署の情報共有を密にして、今後流行が起きた際はより迅速な対応をとれるべく、準備中である。

2.SVFへの対応:この流行においては、予防接種済者の発症が数多く見られた。これは今後わが国で麻疹の流行が生じた場合、同様のことがどこでも起きることを示唆している現象である。麻疹、風疹の2回接種が定期接種として導入されることになったが、この接種率を高く保つとともに、今後は麻疹ワクチン2回目接種を、定期接種対象者以外でSVFの可能性の高いであろう世代層にいかに進めていくかも麻疹eliminationに向けての大きな課題であろう。

今回小学生低学年で接種既往者における麻疹発生が多く見られている。ワクチン接種後たった5年位で麻疹感染発症が起きてしまうとすれば大きな問題である。

千葉市医師会感染症対策委員会 原木真名
千葉市医師会学校保健理事 太田文夫

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