学習塾における結核集団感染事例−東京都

(Vol.27 p 258-259:2006年10月号)

初発患者は、管内にある学習塾の塾長を務める30代の男性講師。2005年1月初旬に発熱、咳症状が出現。3カ所の医療機関を受診したが診断がつかず、4月初旬に初めて肺結核(bII3)と診断された。咳の程度はひどかった。喀痰塗抹G7号。PCR TB(+)。感染危険度指数は21(最重要)。塾は担任制個別指導方式で、生徒は小学4年生〜高校3年生までが対象。教室は雑居ビルを改造して大部屋とし、各生徒の机の間には高さ約 1.5mのL字型パーティションが置かれていた。教室には換気扇がなく、塾講師の定期健診は未実施だった。

定期外健診の対象者は、初発患者の症状出現1カ月前から入院するまでに塾に在籍した生徒 118人、講師28人(19〜33歳、ほとんどがアルバイト大学生)、初発患者と面接した保護者等47人の計 197人。保健所以外の健診や有症状受診で結核と診断された生徒4人は対象から除いた。

初発患者がいわゆるデインジャーグループ(発病すると、職業上他の人に感染を及ぼすおそれの大きい人)であり多量排菌していたため、定期外健診にクォンティフェロン第2世代(QFT)検査を導入した。QFTの対象者は当初、ツベルクリン反応(ツ反)(39歳以下の者に実施)発赤長径30mm以上の者としたが、生徒・講師のQFT陽性者率が異常に高いことが判明した後は、ツ反対象者全員に拡大した。また、第2回定期外健診でも、初回健診でQFT未実施だった者を対象にQFT検査を実施した。QFTの判定は、ESAT-6またはCFP-10によるIFN-γ値が0.35IU/ml以上を陽性、0.1IU/ml以上0.35IU/ml未満を判定保留(疑陽性)、0.1IU/ml未満を陰性とした。

初回定期外健診における生徒と講師のQFT 陽性者率は、70.0%および56.5%と高値だった。生徒および講師のツ反発赤長径とQFT 判定結果の関係(図1)では、発赤長径が大きくなるに従いQFT陽性者が多くなった。一方、発赤長径が10〜20mm台の者にもQFT 陽性者がみられた。結核患者は計38人(生徒25人、講師12人、保護者1人)発見された。このうち、QFT検査を実施した30人中29人がQFT 陽性、1人が疑陽性だった。

化学予防適応者の選定基準は、生徒と講師の広範な結核感染が明らかになったことから、QFTの感度も考慮して、(1)QFT陽性または疑陽性、(2)ツ反発赤長径40mm以上、(3)ツ反発赤長径30〜39mmかつ初発患者との接触度が高かった者、のいずれかに該当するものとした。初回および第2回定期外健診の結果、生徒76人、講師10人、保護者等7人、計93人が化学予防適応者となった。このうち67人はQFT陽性、11人は疑陽性だった。

2006年6月末現在の二次発病者は、定期外健診以外で発見された生徒4人を含め、生徒30人、講師12人、保護者等4人(発病率はそれぞれ、24.6%、42.9%、8.3%)、計46人となった。発病した生徒の1人は、QFT陽性のため予防内服中の発症だった。菌株が得られた二次発病者8人全員の菌のRFLPパターンは初発患者の菌と一致していた。

二次発病者またはQFT陽性者を結核感染者とみなすと、初発患者から直接指導を受けた生徒の感染率は、他の講師から指導を受けた生徒の約1.6倍高く、また、発病率は約5倍高かった(図2)。生徒では、通塾頻度が増すにつれて感染率および発病率が高くなる傾向が見られた(図3)。

初発患者を感染源とする学習塾関連の二次発病者は、2006年6月末現在、当保健所が把握している46人と、他区にある系列の塾本部における会議等の場で感染を受け発病した講師仲間等19人を合わせると65人にのぼり、国が集団感染の統計を取り始めた1992(平成4)年以降では、わが国で最大規模の結核集団感染事例となった。

今回の大規模な結核集団感染は、初発患者の感染源としての要因[いわゆるデインジャーグループ、診断の遅れ(3カ月間)、多量の排菌(G7号)、強い咳など]、環境要因(個別指導、過密な空間、換気不足など)、宿主の感受性(接触者の多くが結核未感染の若年者、受験シーズンで体力を消耗など)等の要因が密接に絡まって発生したと考えられる。

中野区保健所 深澤啓治

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