クォンティフェロン第2世代(QFT)はBCG接種の影響を受けずに結核感染の診断を行うことができる検査法である。神戸市では、2005(平成17)年11月から定期外健診へのQFT導入に積極的に取り組んでおり、本年5月の時点でその実施例は10事例となった(表)。QFTの導入により、予防内服適応者をより確実に特定できたと思われる4事例を取り上げ紹介する。
事例1:初発患者は特別養護老人ホーム(特養)に入所中の83歳、男性。感染危険度指数はG2号×2カ月=4。定期外健診の対象者である特養職員56名に対してツベルクリン反応検査(ツ反)とQFT検査を実施した(図)。ツ反発赤径とQFT判定結果の関係では、ツ反30mm以上の16名中QFT陽性者は3名であり、30mm未満の40名中にはQFT陽性者は認められなかった。リンパ球の反応性低下によるQFT判定不可1例を経験したが、乾癬性関節炎のためステロイド・免疫抑制剤を服用中であった。QFT陽性3名のうち2名にはそれぞれ結核治療歴、結核病棟勤務歴があり、ともに胸部X-P所見で陳旧性病巣が認められた。他の1名(28歳、男性)には他に職業歴、家族歴がなく、胸部X-P上異常所見もないことから、予防内服の適応とした。従来の基準で30歳未満28人においてツ反30mm以上で予防内服を適応すると、対象者は6名となり、5名に無用な内服をさせた可能性がある。今回得られたQFTの結果は、ツ反、X-P所見、問診からも妥当な結果であり、接触者健診時のQFTの有用性を支持するものといえる。
事例2:初発患者は小中学生対象の塾講師、58歳、男性。感染危険度指数はG1号× 0.5カ月=0.5。生徒73名(小4〜中3)と同僚講師2名に対してツ反とQFTを実施した(図)。ツ反の結果は0〜29mm(61名)、30〜39mm(9名)、40〜49mm(4名)、87mm(1名)であり、QFT陽性者はなかった。ツ反87mmの小5児は3年前のツ反が25mmであったこと、および、QFTの感度は約90%であることから、今回の感染の可能性を否定できず、予防内服を勧奨した。QFTは定期外健診の精度を上げる有用な検査法であることは疑いのないことであるが、同時にその結果を正しく判断するためには細やかな予診・問診が重要であることが改めて認識される事例である。また、QFTの改良による感度向上が望まれる。
事例4:初発患者は特養に入所中の91歳、女性。車椅子移乗・食事・入浴等全面介助を要す。感染危険度指数はG5号×1カ月=5。29歳以下の従業員22名を対象にツ反とQFTを実施した(図)。従来のツ反基準では予防内服対象外である発赤径30mm未満の17名のうちQFT陽性1名(ツ反12mm)、QFT疑陽性1名(ツ反23mm)が認められた。ツ反30mm以上の5名中、QFT陽性者はなく、疑陽性者が2名あった。健診対象者の介護職員は患者の介護必要度が高く濃厚接触であることを考慮し、QFT陽性1名、疑陽性3名に加えてツ反30mm以上・QFT陰性3名の計7名に対し予防内服適応とした。ツ反陰性・QFT陽性例はこれまでにも少なからず報告されており、また、QFTの特異度は100%に近いことから、今回の事例では、QFTにより従来見落とされていた感染者が特定できたものと考えられる。
事例7:初発患者は精肉会社社員、45歳、男性。感染危険度指数はG2号×4カ月=8。精肉加工事業所職員43名を対象にツ反とQFTを実施した(図)。ツ反の分布は2峰性様であり、QFT陽性6名、疑陽性7名と、QFT陽性率が高いことから、集団感染の可能性が考えられる。QFT陽性、ツ反82mmの46歳男性が発病、QFT陽性、ツ反47mmの28歳男性を予防内服適応とした。QFT陽性率の高い集団であることから、出張で行き来のある神戸市外にある営業所の定期外健診が必要と判断された。これまでに実施した定期外健診でのQFT検査(表)から今回の事例、および事例3、8のようにQFT陽性率の高い集団を経験した。定期外健診にQFTを導入することで明らかにされたものであり、神戸市での結核対策上重点を置くべき対象であるといえる。
定期外健診にQFT検査を導入することで、より正確な結核感染の診断が可能となり、予防内服者の選定、集団健診の範囲・方向性の特定に有用であった。一方、QFTでの検出感度は約90%であり、偽陰性者を完全に除くことはできない。したがって、ツ反の場合と同様、疫学的調査・問診・他の検査結果から総合的に感染の有無を判断する必要がある。
(QFT検査は厚生科学研究「有用な結核対策に関する研究(坂谷班)」の一環として行った。)
神戸市環境保健研究所 岩本朋忠 園部俊明 田中 忍
神戸市保健所・区保健福祉部