家族内の複数名に発生したマラリア、2006年−米国・イリノイ州シカゴ

(Vol.27 p 281-281:2006年10月号)

ヒトのマラリアは、ハマダラカの刺咬で伝播する寄生虫疾患である。米国のマラリア症例のほとんどは、適切な予防内服を行わずに流行地域を訪れた旅行者に起きている。2006年には、イリノイ州シカゴ近郊に住むナイジェリア出身の7人家族で、熱帯熱マラリア5例が報告された。

2006年2月に、10歳、6歳、4歳の男児3人が重症熱帯熱マラリアで入院した。家族には両親とこれらの男児3人の他に、11歳と2歳の女児があり、全員が2005年〜2006年1月に母国のナイジェリアに渡航して、友人や親族を訪ねていた。家族は10年前に米国に移住したが、年少の4人の子供は米国で生まれた。

渡航前に、両親は地元の保健当局で抗マラリア薬について相談したが、治療だけでなく予防内服にも使えるとは考えず、処方を受けなかった。母親と年少の3人の子供は3カ月間、父親と年長の2人の子供は5週間現地に滞在し、全員が2006年1月に帰国した。現地滞在中、5人のうちの3人の子供(2歳、4歳、6歳)が別々に発熱を生じ、地元の医師の勧めで抗菌薬、イブプロフェン、スルファドキシン/ピリメタミン合剤による治療を受けた。

帰国して2週間後、年長の子供4人がインフルエンザ様症状(発熱、頭痛あり)で発症し、地元のクリニックで解熱剤とアモキシシリンによる治療を受けた。その3日後、両親が男児3人の眼球の黄染に気付き、病院を受診したが、血液塗抹で3人全員が熱帯熱マラリアと診断確定された。3人はいずれも重症マラリアの症状(アシドーシス、低血糖、重症貧血、黄疸)の1つ以上を有しており、全員が小児ICU に入院し、キニジン注射薬+ドキシサイクリン(10歳男児)、あるいはキニジン注射薬+クリンダマイシン(6歳男児、4歳男児)による治療を受けた。入院3日目には3人ともに原虫血症が消退し、1週間後には良好な状態で退院した。女児2人についても血液塗抹検査を行い、原虫数は少ないが熱帯熱マラリアと判明した。11歳女児には発熱と頭痛があったが、2歳の妹は無症状であった。2人とも一般小児科病棟に入院し、キニーネ経口薬とドキシサイクリンあるいはクリンダマイシンとの併用療法を受け、原虫血症は入院3日目に消退した。5人の子供は全員が鎌状赤血球症、あるいはその保因者であった。

CDCでは、有症状者4人の治療前の血液検体でPCRを行い、熱帯熱マラリアであることを確認した。残り1名については治療前の血液検体が入手できず、治療後の検体でのPCRでは陰性であった。両親は無症状で、かかりつけ医にメフロキンの投与を受けたが、血液塗抹検査は行われなかった。

これらの症例は、マラリア流行地域への渡航者では、蚊の刺咬を避けることや適切な予防内服など、マラリア予防策を取ることの重要性を強く示すものである。

(CDC, MMWR, 55, No.23, 645-648, 2006)

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