遠洋マグロ漁船内で発生した集団細菌性赤痢事例

(Vol.27 p 274-275:2006年10月号)

2類感染症である細菌性赤痢の2005年の第1週〜52週における報告数は、感染症情報センターの集計によると557例であり、そのうち疑似症を除く544例についての推定感染地域は国内121例、国外412例(インド、インドネシア、ベトナム、フィリピン等)、不明11例であった。

本(2006)年3月〜6月にかけて千葉県で初発と2人目、その後高知県で3人目が検出された漁船内における船員3名の集団細菌性赤痢感染事例が発生したのでその概要を報告する。

漁船は高知県内の株式会社が所有する主に東南アジアを操業するマグロ漁船であり、船長他2名の日本人とインドネシア人6名の、計9名が乗組員であった。漁船は2006年1月27日に高知県を出港し、約1月間操業後に千葉県に2月、3月そして4月と寄港している。初発患者は、3月16日千葉県に寄港の際、1名が赤痢症状を呈し投薬治療を受け、3日経過した漁船出港後に細菌性赤痢Shigella flexneri 3aと判明し、発生届出となった。千葉県疾病対策課から高知県健康づくり課へ赤痢情報・確定患者の就業制限・消毒についての情報が連絡され、管轄保健所が衛生指導を実施した。

同船は1カ月後の4月11日に千葉県内港に寄港し、乗組員全員の検便実施の結果、新たに1名が赤痢の疑いで投薬治療を受けた。同時に管轄保健所による船内消毒、貯留水の水質検査が実施され、2日後に再び出港後、細菌性赤痢と判明し、発生届出となった。

これらの経過・情報を千葉県疾病対策課から入手し、5月31日に寄港した高知県内港で管轄保健所が全員検便実施の結果、疑似患者1名(無症状)と疑い1名(無症状)が発見され、受診投薬治療を受けた。管轄保健所による消毒・衛生指導が出港前に実施され、2日後の6月2日に高知県を離れた。検査結果については、疑い1名は陰性であったが、疑似患者の1人は同じ細菌性赤痢と判明し、発生届出となった。それから1カ月後の7月3日再び高知県に寄港し、全員検便を実施して全員の陰性が確認できた。

以上が初発患者の発生した3月中旬〜全員陰性となった7月までの3カ月半に及ぶ経過である。この事例は長期の遠洋操業を行う漁船の限定された船内という特異な環境で発生し、患者は3名とも若いインドネシア人男性であった。

管轄保健所による調査から、保菌者の糞便、および糞便に汚染された手指や食品を介しての経口感染が推定された。細菌性赤痢は感染力が強く、特に長期船上生活においては飲料水、食品、トイレ環境を汚染し二次汚染を起こしやすい。

このような感染症発生事例の対応には千葉県および高知県の感染症担当課による相互の迅速な情報伝達をはじめ、保健所や衛生研究所と各機関の連携が不可欠であった。

また、漁港を管轄する保健所による継続的な衛生指導には多くの苦労があったことが推察され、感染経路を遮断するために船員全員へ手洗いの徹底について重ねて実施された衛生指導が成果につながったと思われた。

高知県衛生研究所 絹田美苗
高知県健康づくり課 間崎 睦
千葉県疾病対策課 渡辺素子

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