髄膜炎菌性髄膜炎の1症例−山形県

(Vol.27 p 276-277:2006年10月号)

かつてNeisseria meningitidis は流行性化膿性髄膜炎の起因菌として恐れられていたが、近年、日本国内においては本菌による髄膜炎は極めて少なくなり、感染症法が施行された1999年以降は年間8〜22例の報告があるにすぎない。今回当院救命救急センターに搬送された患者の髄液より本菌が検出され、髄膜炎菌性髄膜炎と診断した1例を経験したので報告する。

患者は16歳男性で、既往症として小学校低学年時、中耳炎に罹患。家族歴および海外渡航歴に特筆すべき事項はない。患者は2006(平成18)年2月27日午前6時頃全身倦怠感、39.5℃の発熱、頭痛があり、午前8時近医を受診した。眼球結膜充血と、咽頭発赤があり、インフルエンザウイルス迅速診断キット陰性であったが、リン酸オセルタミビル、アジスロマイシンが処方された。翌28日嘔吐あり、家族が呼んでも反応鈍く、着替えを自分でできない状況のため、午前10時頃救急車搬送で当院救命救急センターを受診し、即日入院となった。

救命救急センター来院時の所見は体温39.5℃、血圧138/68mmHg、左結膜点状出血がみられたが、胸部および腹部に異常は認めなかった。意識は呼名開眼するものの、言語命令に従えず、項部硬直がみられた。眼球の偏位はなかった。臨床検査成績をに示した。白血球数 28,850/μl、CRP 8.73mg/dl。髄液は白濁、細胞数1,220/μl(97%多核球)であった。グラム染色でグラム陰性双球菌をわずかに認め、Neisseria meningitidis が推定された。羊血液寒天培地およびチョコレート寒天培地に髄液を塗布し、37℃、微好気条件で18時間培養した。血液寒天培地およびチョコレート寒天培地に乳白色で1.0〜1.3mm大のS型のコロニーが平板の1/3程度に純培養状に発育するのが認められた。溶血はみられなかった。IDテスト・HN20(日水製薬)でN. meningitidis と同定された。主な性状は、カタラーゼ+、オキシダーゼ+、ブドウ糖+、乳糖−、麦芽糖+、白糖−、硝酸塩還元−等であった。後日、国立感染症研究所において血清群Y群、遺伝子型ST-23であることが確認された。

化膿性髄膜炎と診断後、CTRX、VCM、静注用人免疫グロブリン製剤を投与した。2月29日には頭痛、発熱は残っていたが意識清明となった。3月3日、薬剤感受性検査の結果、起因菌はPCG、ABPC、CTRXに感受性であることが判明した。3月21日までCTRX継続加療で軽快し、3月29日退院した。

髄液の白濁、髄液の直接鏡検で多数の細胞が認められたこと、およびグラム染色にてわずかであるがグラム陰性双球菌を認め、その形状からN. meningitidis が推定されることを臨床側に伝えた。臨床側も受診時所見から髄膜炎菌性髄膜炎を疑っており、培養を待たずに早期に化膿性髄膜炎と診断し、迅速に抗菌薬療法が行われ順調に回復し退院した症例であった。基本的な検査である髄液のグラム染色が起因菌検索のうえで非常に有用かつ重要であることを再認識した。今回分離されたN. meningitidis の血清群はY群で、わが国の分離株に特徴的な血清群であった。海外渡航歴もなく、国内での感染と考えられ、今後も髄膜炎菌性髄膜炎の発生に留意する必要がある。

山形県立中央病院中央検査部 松村照子 安藤雅美 門間美穂 木元久子
山形県立中央病院神経内科 高橋賛美
山形県衛生研究所 大谷勝実 保科 仁

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