2005/06シーズンの岡山県におけるG9型A群ロタウイルス流行について

(Vol.27 p 278-279:2006年10月号)

A群ロタウイルス(ARV)は、外殻糖蛋白(VP7)の抗原性により14の血清型(G型)に分類されているが、そのうちヒトから検出される頻度が高いのはG1〜G4型である1)。しかしながら、近年新たにヒトの間に出現したG9型による世界的な流行が確認されるなど、G1〜G4型以外の流行動向が注目されている。我々は岡山県におけるARV流行状況を把握するため、2000年から継続的なG型別分布調査を行っているが、2005〜2006年シーズン(2005/06シーズン)に県内でG9型ARVの広範な流行を確認したので、その概要について報告する。

2005年9月〜2006年5月に岡山市内の(独)国立病院機構・岡山医療センター小児科、および岡山赤十字病院小児科で採取され、市販のARV検査キットで陽性となった胃腸炎患者糞便 119検体(岡山医療センター92検体、赤十字病院27検体)について、市販のELISAキット(ロタMA、セロテック社製)およびGouveaら2)のRT-PCR法を用いてG型別を実施した。さらにG9型と同定された場合には、Wuら3)の方法に従い逆転写PCR法により外殻スパイク蛋白の遺伝子型(P遺伝子型)を決定するとともに、一部の株についてはVP7遺伝子配列を決定し、既知の株との比較を行った。

G型別の結果、119検体すべてが型別可能であった。その内訳は、G9型66件(55%)>G1型34件(29%)>G3型18件(15%)>G2型1件(0.8%)であり、G9型が全体の半数以上を占めていた。医療機関別の検出状況には大きな差はなく、いずれもG9型が最も多く検出された。週別のG型別検出状況を図1に示す。G9型は2006年第5週に検出され始めた後、翌週には急激に検出数が増加し、第7〜9週には陽性数の1/3にあたる22株が集中して検出された。その後、G9型は第22週(5月下旬頃)に至るまでほぼ継続的に検出された。なお、第7〜9週には他のG型の検出数増加も相まって、ARV全体として検出ピークを形成した。一方、岡山県感染症発生動向調査に基づく定点医療機関当たりの感染性胃腸炎患者数推移をみたところ(図2)、2006年第5〜10週には過去5年間の平均を上回る患者数が確認されていた。特に第7〜9週には「過去5年の平均+2SD値」を超える著明な増加が認められ、当該時期に患者数はピークに達した。このような平年を上回る患者数の増加は、前述のARV検出状況などから推察して、G9型を中心としたARV 流行により引き起こされたのではないかと考えられた。

次にG9型株の相互関係をみるため、今回検出された66株についてP遺伝子型の同定を行ったところ、すべてP[8]型であることがわかった。さらに詳しい解析のため、2月に検出された3株および3月に検出された3株の計6株について、VP7遺伝子のオープンリーディングフレームに相当する978塩基対の配列を決定し相互に比較を行った。その結果、6株のVP7は互いに遺伝子で99.8〜100%、予測アミノ酸(326アミノ酸)で99.4〜 100%の相同性であり、極めて高度に保存されていることがわかった。さらに今回検出された株と、これまでに世界各地で検出されたG9型株の関係をみるため、近隣結合法による遺伝子系統解析を行った(図3)。その結果、今回の株が1994年以降に日本をはじめ、オーストラリア、ブラジル、アメリカ、インドなど世界各地で検出されたG9型株と同じ系統に属していることが明らかになった。

岡山県では、2001/02シーズンにG9型ARVが初めて確認され、しかも当該シーズンにはG9型がARV全体の29%を占めた4)。翌シーズンにもわずかながらG9型が検出されたものの、その後2シーズンは全く検出されなくなった4)。しかしながら、2006年2月に再び検出され始めた後は急激にその数が増加し、G9型がARV全体の55%を占めるという、これまでにない広範な流行になった。今回の流行に至った背景について明確なことはわからないものの、(1)G9型は近年新たに出現したG型のため、住民の抗体保有率が全体として低いこと、(2)2001/02シーズンに県内へ侵入したG9型ARVが、その後数年間で県下へと広がったこと、(3)県内のG9型流行は2003年以来3年ぶりのため、ARVの好発年齢である2歳以下の乳幼児がほとんど抗体を保有していなかったこと、などが考えられた。以上のように、これまでARV の主流行と考えられてきたG1〜G4型に加え、G9型のような新興G型の流行動向についても注意深く監視していく必要があると考えられる。

 文 献
1)小林宣道, 浦沢正三, ウイルス 50: 157-172, 2000
2)Gouvea V, et al ., J Clin Microbiol 28: 276-282, 1990
3)Wu H, et al ., Epidemiol Infect 112: 615-622, 1994
4)葛谷光隆, 他, IASR 26: 4-6, 2005

岡山県環境保健センター
葛谷光隆 濱野雅子 藤井理津志 西島倫子 小倉 肇
独立行政法人国立病院機構 岡山医療センター 藤田裕子 西村恵子 金谷誠久
岡山赤十字病院第一小児科 国富泰二

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