神奈川県域で2006年3月〜4月にかけて、小児科定点の胃腸炎患者便から検出されたウイルスはA群ロタウイルスが半数以上を占め、A群ロタウイルスの流行が確認された。この時期に感染性胃腸炎を発症後、脳炎症状を示した症例があり、RT-PCRによりA群ロタウイルス遺伝子が検出されたので報告する。患者の症状および経過については表に示した。
4月29日の髄液、5月1日の咽頭ぬぐい液、5月3日の便について、Gouveaら1)のプライマーを用いてRT-PCRを行った。便では1st PCRと2nd PCRのG3型別用プライマーで遺伝子の増幅がみられた。髄液と咽頭ぬぐい液では1st PCRでは増幅がみられず、2nd PCRのG3型別用プライマーで遺伝子の増幅がみられた。このように髄液、咽頭ぬぐい液および便から同一のA群ロタウイルス血清型G3型が検出されたことと、患者の症状および経過から、この症例はロタウイルスによる急性脳炎と診断された。この時期、県域で検出されたA群ロタウイルスの血清型はG1型とG3型がほぼ同率であり、G1型とG3型の二つの血清型による流行がみられ、そのうちのG3型による症例であった。また便については電子顕微鏡によりウイルス粒子の確認を行ったところ、ロタウイルス粒子が観察された。
髄液中にロタウイルスRNA が認められた急性脳炎・脳症のうち、多くの場合には後遺症なく軽快しているが、発達障害や麻痺を残すなど重篤な神経学的後遺症を残した例も報告されており、A群ロタウイルスが流行している時期の胃腸炎発症後の髄膜炎患者について、髄液のA群ロタウイルス検査が必要であると思われた。
文 献
1)Gouvea V, et al ., J Clin Microbiol 28: 276-282, 1990
神奈川県衛生研究所微生物部 古屋由美子 片山 丘 宮原香代子
藤沢市民病院小児科 小林明日香 船曳哲典
藤沢市保健所保健予防課 大西 操 岡田茂雄