2006年の神奈川県域(横浜市、川崎市を除く)でのヘルパンギーナの週別患者報告数は、第22週(5/29〜6/4)に定点当たり1.0人を超え、例年に比べ2週間ほど早くから流行が始まり、2001年規模の大流行が予測されたが、第25週(6/19〜6/25)に7.07人とピークを迎えた後、第31週(7/31〜8/6)には定点当たり1.0人を下回り、現在、終息に向かいつつある(図1)。一方、手足口病の週別患者報告数は、第27週(7/3〜7/9)から定点当たり1.0人前後で現在まで推移しており、大きな流行は見られていないが(図2)、県西地区(小田原、足柄上保健所管内)では第23週(6/5〜6/11)から局地的流行が見られ、特に小田原地区では第30週(7/24〜7/30)に8.00人となり、現在も流行が続いている。
神奈川県域(横浜市、川崎市、横須賀市、相模原市、藤沢市を除く)における病原体定点医療機関から搬入されたヘルパンギーナ、手足口病患者の咽頭ぬぐい液検体については、RD-18S、HeLa、Vero、HEp-2、LLC-MK2、VeroE6細胞の6種類の培養細胞および哺乳マウスを用いてウイルス分離を行っている。細胞分離株は国立感染症研究所(感染研)分与および市販抗血清による中和試験により、哺乳マウス分離株では感染研分与および自家製免疫腹水等を用いたCF試験により同定し、難同定株については、RT-PCR法によりエンテロウイルスVP1領域およびVP4領域の遺伝子解析を行い、NCBIのBLAST解析での相同性検索により同定を行っている。
2006年1月〜8月末までに、ヘルパンギーナ患者検体の咽頭ぬぐい液37件が搬入されており、現在までにA群コクサッキーウイルス(CA)4型が20株、単純ヒトヘルペスウイルス1型(HSV-1)が1株、アデノウイルス(Ad)3型が2株分離された(表1)。このことから今夏のヘルパンギーナ流行の主因ウイルスはCA4と推測された。
また、手足口病患者検体の咽頭ぬぐい液39件からは、現在までにCA16が6株、CA4が3株、HSV-1が1株分離された(表2)。CA16が分離された6例中、4例が小田原地区からであり、県西地区の局地的流行はCA16によるものと推測された。EV71については、神奈川県域では、2003年、2005年と流行がみられており、今シーズンはまだ検出されていないが、手足口病は県域全体でも小規模ながら流行が継続しているため、今後の動向に注意が必要である。
当所では、ヘルパンギーナ、手足口病患者からの検体はすべて培養細胞とともに哺乳マウスによる分離を併用することで、より多くのCAを高率に分離することに努めている。今シーズンのCA4分離株23例では、哺乳マウスから23株、RD-18S細胞から2株が分離と、培養細胞よりも哺乳マウスの方がCAの検出率が高かった。また、昨シーズンは手足口病患者検体から培養細胞でEV71、哺乳マウスでCA6が検出された重複感染例や、今シーズンはヘルパンギーナ患者検体から、哺乳マウスでCA4、培養細胞でAd3が検出された重複感染例を経験している。
今後も、ウイルス流行状況の実態把握のために、これら分離・同定方法を活用し、病原体調査を実施していきたいと考えている。
神奈川県衛生研究所微生物部
嶋 貴子 齋藤隆行 近藤真規子 渡邉寿美 尾上洋一 新川隆康
神奈川県感染症情報センター
水野桂子 佐藤善博 折原直美