2006年6月、大分県内の小学校においてエコーウイルス18型による髄膜炎の集団感染事例を経験したので、その概要を報告する。
6月23日〜28日にかけてA小学校(21学級、児童数714名、教職員34名)の1年生が発熱、嘔吐、頭痛等の症状を訴え、多数欠席している旨の通報が管轄の県民保健福祉センターにあった。県民保健福祉センターによる聞き取り調査の結果、クラス24名中18名に症状が認められ、その主徴は37.7〜40℃の発熱、嘔吐、頭痛で、他に腹痛、下痢、咳、咽頭痛がみられた。17名が医療機関を受診し、4名が入院、うち1名が髄液検査で無菌性髄膜炎と診断された。他の学級および学年には、有症者はいない等の情報を得た。県民保健福祉センターでは、患者発生状況等の情報収集を継続するとともに、二次感染予防のため、教室、トイレの消毒を行い、児童および保護者に対し、うがい・手洗いを徹底するよう指導するなどの拡大防止対策を実施した。
患者発生状況は23日3名、24日3名、25日6名、26日3名、27日2名、28日1名で、欠席者は延べ45名であった。29日、30日の学級閉鎖以後、同様の症状を呈する児童の報告はない。家族内感染は、1家族で患児の妹に認められたものの、他の17家族には認められなかった。
ウイルス検査は有症者18名のうち了解が得られ、当センターに搬入された11名(うち1名は有症者の妹)の糞便を用いて実施した。ウイルス分離にはHEp-2細胞、RD-18S細胞、Vero細胞およびCaCo-2細胞を用いた。遺伝子検出はRT-PCR法にて1st PCRはMD91/OL68、2nd PCRにはEVP4/OL68-1プライマーを用いて行った。A群ロタウイルスおよびアデノウイルス抗原検出には市販キット(イムノクロマト法)を使用した。
ウイルス分離では、CaCo-2細胞は11検体すべてに、RD-18S細胞は8検体に細胞変性効果が認められた。分離ウイルスは、デンカ生研製エンテロウイルス抗血清を用いた中和法によりエコーウイルス18型と同定された。分離された11株のRT-PCRダイレクトシーケンスでは、VP4-VP2領域の塩基配列が一致した。A群ロタウイルスおよびアデノウイルスはすべて陰性であった。
以上の結果から、今回の事例は教室内で感染したエコーウイルス18型による無菌性髄膜炎の集団感染と考えられた。大分県内では5月下旬以降エコーウイルス18型による無菌性髄膜炎の流行が続いており1)、今後も動向を注意深く監視する必要がある。
文 献
1)吉用省三他、IASR 27: 230, 2006
大分県衛生環境研究センター微生物担当 吉用省三 長岡健朗 小河正雄 川島眞也 渕 祐一