市内保育施設でのエコーウイルス30型による無菌性髄膜炎の小流行−神戸市

(Vol.27 p 272-273:2006年10月号)

2006年7月下旬〜8月中旬にかけて神戸市長田区内の保育園でエコーウイルス(E)30型による無菌性髄膜炎が小流行した。7月30日に5歳男児(4歳児クラス)が無菌性髄膜炎を発症した。引き続き7月31日5歳男児1名と6歳女児1名(ともに5歳児クラス)、8月1日6歳女児(5歳児クラス)1名、8月3日5歳児クラスの担任保育士1名が無菌性髄膜炎を発症した。その後無菌性髄膜炎の発生は無かったが、8月14日4歳男児(3歳児クラス)が無菌性髄膜炎を発症した。8月2日〜8月9日の間、112名の園児中、体調不良による休園児は毎日3〜4名程度で、発熱者および下痢を呈しているものが通常より特段多くはなかった。なお無菌性髄膜炎を発症した患者の予後は良好であった。

患者6名の髄液・咽頭ぬぐい液・便からのウイルス分離を実施し、5名の患者検体よりE30を検出した()。

ウイルス分離にはRD-18S、HEp-2、FL、Vero-E6細胞を用いた。検体接種後2〜3日でRD-18SにCPEを呈した。近畿地区エンテロレファレンスセンター分与EP95および国立感染症研究所(感染研)分与のE30単独中和用抗血清で良好に中和された。さらにVP1領域の遺伝子解析(詳細は下記)を行い、E30と同定された。近隣地域でE18の検出が多数あったため、同定の際E18の抗血清も用いたが、デンカ生研製のE18単独中和用抗血清はE30のCPEを強く抑制し(5単位で中和)、クロスしていることがわかった。感染研分与のE18抗血清はクロス反応しなかった。またデンカ生研製のE30単独中和用抗血清は同定に50単位以上必要であった。同定の際、デンカ生研製の単独中和用抗血清のみの使用は血清型を間違う可能性があり、注意が必要である。

さらに急性期および回復期の血液を採取し、8月1日発症の6歳女児(患者番号911)の便から分離されたE30ウイルスを用い中和抗体価を測定した(RD-18S細胞使用)。ペア血清を採取できた4名すべてにおいて抗体価の4倍以上の上昇が見られた。初発の5歳男児の提出検体は髄液のみであり、分離結果は陰性であった。血液も急性期のみ(中和抗体価80倍)しか採取できなかった。この血清中のIgM抗体の存在の有無を確認するために2メルカプトエタノール(2ME)処理後、限外ろ過によりバッファー交換を行い、中和抗体価を測定した。比較として2MEに代わり同様の処理をMEM培地にて行った。その結果、2ME処理血清の中和抗体価は10倍、比較としたMEM処理の抗体価は80倍であり、IgMの存在が確認され、E30による無菌性髄膜炎であることが推測された。

5患者から分離された7株についてObersteらのプライマーを使用しVP1領域の遺伝子解析を行った。分離株間の変異を調べるためVP1領域の749塩基を解析した結果、1患者からの2分離株を除いてすべての株は完全に一致した。1患者(患者番号911)の咽頭ぬぐい液と便から分離された株は他患者株より1塩基変異(A→G)していたが、アミノ酸配列に置換は無く、サイレントミューテイションであった。今回の分離株の相同性検索を行ったところ、2004年中国淅江省での流行株と96%の相同性がみられた。さらにDDBJのClustalWを使用し、今回の分離株と過去のE30神戸株、およびアジア近隣地域株のVP1遺伝子の塩基配列に基づく系統樹を作成した()。今回分離された株は2003年に中国江蘇省で流行した株、および2004年に同じく中国淅江省での流行株、さらに2004年広島で分離された株と同じクラスターを形成した。今回のE30分離株は中国東部沿岸部(上海近辺)からの由来と考えられる。

現在、園内および近隣地域においても流行は終息している。

参考文献
1)Oberste MS, et al ., J Clin Microbiol 38(3): 1170-1174, 2000
2)秋吉京子, 春田恒和, 臨床とウイルス34(3):164-173, 2006

神戸市環境保健研究所 秋吉京子 中川直子 須賀知子
神戸市保健所予防衛生課
長田区保健福祉部健康福祉課
公文病院 民田永理
神戸市立西市民病院 城洋志彦
西神戸医療センター 田中孝之
神戸市立中央市民病院 春田恒和

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