学校で飼育していた羊から腸管出血性大腸菌O157の感染が疑われた事例−新潟県

(Vol.27 p 265-266:2006年10月号)

2006年7月、上越市内の小学校1年生の女児が腸管出血性大腸菌O157(以下O157)感染症と診断され当所に届出があった。家族および学校の調査を行ったところ、学校で飼育していた羊2頭と家族1名からO157が検出された。分離株の血清型はすべてO157:H7でVT1&2を産生し、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析では同一パターンを示したことから、飼育動物からの感染が疑われ、続いて家庭内感染が発生したと考えられた事例について報告する。

初発患者:初発患者は小学校1年生(6歳)の女児。2006年7月25日午後から下痢、腹痛があり、夜中も数回の排便があった。7月26日早朝から下痢(水様便)、血便、嘔吐、発熱があり、市内の病院で受診したところ、腸閉塞疑いで市内の総合病院へ紹介入院となった。入院後検便実施、感染性胃腸炎と診断され治療開始、7月29日に便培養の結果からO157(VT1&2)の感染が判明し、届出された。患者はHUS等の症状はなく軽快し、8月2日に退院した。

疫学調査:当所では、患者家族に聞き取り調査および検便を実施し、家庭内の消毒を指導した。また、家族の同意を得た後小学校で聞き取り調査を行い、給食の献立表の提出を求め、1年生児童および職員、給食従事者の健康状況等を確認したところ、他に発症者はなかった。また、患者は7月22日に地区の行事に参加していたので併せて調査したが、他の参加者には発症はなく、これらから集団感染および食中毒は否定され、散発感染事例として学校内のトイレ、手洗い場の清掃・消毒の継続と、職員および学童の健康管理に留意するよう指導した。

羊の飼育状況:患者の通学する小学校では7月6日より近くの牧場から借りた羊2頭(サホーク種の雄、雌の双子で、借用前は牛と一緒に放牧されていた)を飼育しており、1年生が交代で世話をし、作業後は手洗いするよう指導されていた。初発患者も7月21日に他の児童9人と世話をしており、この羊からの感染が疑われたため、便を採取して検査を行った。羊は当初、世話をする児童以外接することができないよう中庭で飼育されていたが、調査時には誰もが容易に接触できるプール脇で飼育されていたため、再び中庭に戻し、プール脇の飼育場所を消石灰で消毒するよう指示した。また、夏休み期間中は当番で児童親子が世話をしていたが、検便結果が出るまで職員が世話をすること、手袋、マスク着用と、手洗い等の徹底を指示した。

検査結果:患者の家族5名および羊2頭の糞便計7検体について検査した。羊は2頭ともO157(VT1&2)が検出され、家族のうち81歳の祖母からもO157(VT1&2)が検出された。祖母に症状はなかったが、医療機関での受診・治療を指示した(8月8日に無症状患者として届出)。また、この祖母が利用していた市内のデイサービス施設の調査を行ったが、発症者はなかった。初発患者、祖母、羊2頭由来の4株について、県保健環境科学研究所にてH型別を行ったところH7であった。また、初発患者、祖母、雄の羊由来の3株についてPFGE解析を実施したところ、すべて同一パターンを示した()。なお、その後の国立感染症研究所でのPFGE解析では、雌の羊も同一パターンであった。

対応:羊からO157が検出されたことにより、Vero毒素判明前ではあったが、家畜保健衛生所に学校への指導を依頼し、同行のうえ、羊の飼育の継続について学校側と協議した。その結果、長期間の衛生管理を徹底することは難しく、今後、他の児童等への感染を防ぐため、学校内での飼育は継続しないこととした。羊に対しては家畜保健衛生所の指導のもと、生菌剤を投与し、検便で菌陰性化を確認してから市内の畜産業者へ8月9日に引き渡した。その後、羊を飼育していた中庭の消毒を行い、学童職員の健康管理に注意を払うよう指示した。また関係機関に対して注意喚起の通知を行った。

考察:初発患者は羊を世話した際に感染した可能性が高く、羊からの感染が疑われたが、発症者は1人だけであり、感染源としての断定には至らなかった。祖母については初発患者の発症との時間的関係から家庭内感染と考えられた。近年、教育の一環として学校で動物を飼育する機会は多いが、動物を介する感染症の発生を防止する視点での衛生管理の知識は周知されておらず、保育園、教育関係者ならびに家庭への衛生教育が必要であると思われた。

今回の事例は学校が夏休みに入ってから発生したこともあり、担任を通じて健康状況を確認した。なかなか連絡の取れない児童もいたが、最終的には他の全員は症状がなかったため、検便等の積極的な検査は実施しなかった。保健所と家畜保健衛生所が学校に何度も足を運びながら対応について検討・指導したことにより、感染拡大や学校内の混乱もなく終息できたと考えられた。

新潟県上越保健所(上越地域振興局健康福祉環境部)
西脇京子 峯田和彦 渡辺和伸 吉岡 丹 木村有紀 明田川二郎
新潟県保健環境科学研究所 佐々木寿子

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