大阪府内の病原体検査定点病院において香港旅行者の家族から第39週に採取された検体よりAH1亜型インフルエンザウイルスを検出したので概要を報告する。
患者は10歳と8歳の姉弟で、患者の母親は2006(平成18)年9月21日に香港旅行から帰国し翌日よりインフルエンザ症状を呈していた。姉弟はいずれも24日に発病し、翌25日に発熱、関節痛、咳を主訴として大阪府内の定点病院を受診した。症状のより強かった弟の鼻咽頭由来検体が、迅速診断キットにてA型インフルエンザ陽性となった(姉の検体は未検査)。本症例は、母親が香港でインフルエンザに感染し、帰国後二次感染をおこしたものと考えられたので、当所へ姉弟の検体(鼻汁)が搬入され、念のためにH5ウイルスも含めたインフルエンザウイルスの検査を実施することとした。
当所では「病原体検査マニュアル高病原性鳥インフルエンザ(2006年6月版)」に基づき、A型M遺伝子、H5、H1、およびH3亜型検出用プライマーを用いてOne Step RT-PCR法による検査を実施し、両者の検体ともにA型M遺伝子およびH1遺伝子の特異バンドを検出した。
同時に行ったMDCK細胞を用いたウイルス分離の結果、姉の検体のみ継代3代目においてインフルエンザ様のCPEを認めたので、その培養上清を用いて国立感染症研究所インフルエンザウイルス室が配布した今シーズンのインフルエンザウイルス同定キットと0.7%ヒトO型赤血球を用いた赤血球凝集抑制(HI)試験を実施した。その結果、分離ウイルスは、A/New Caledonia/20/99(H1N1)(ホモ価1,280)抗血清に対してHI価160、A/Hiroshima(広島)/52/2005(H3N2)(同640)、B/Shanghai(上海)/361/2002(同2,560)、 B/Malaysia/2506/2004(同2,560)の各抗血清に対してHI価<10を示し、AH1亜型インフルエンザウイルスと同定された。
本症例は、恐らく香港でインフルエンザウイルスに感染した後の二次感染と考えられるが、当所では先シーズンに相当する7月10日(第28週)に他の病原体検査定点より採取された検体からも同様にA/New Caledonia/20/99(H1N1)に対して低いHI価(ホモ価1,280に対してHI価160)を示すAH1亜型株を分離している。
今シーズン国内でどのくらい同様の抗原変異をもったウイルスがあらわれるのか、その動向に注目したい。
大阪府立公衆衛生研究所ウイルス課 森川佐依子 加瀬哲男 宮川広実
箕面市立病院小児科 三好洋子 山本威久