散発事例として届出のあった2事例に端を発した腸管出血性大腸菌(EHEC)O26集団感染事例について報告する。
2006年9月2日、市内医療機関よりO26VT1患者1名ずつ2事例の発生届けがあった。保健所はそれぞれの家庭内ふきとり、家族・接触者の採便や疫学調査を開始した。患者の喫食調査から8月26日に共通の焼肉店(A店)を利用していることが判明し、当該施設のふきとり・食品の検査および従業員の検便を実施した。
これらの検査結果(図1)で焼肉店の食品(ギアラ)1件と調理従事者の便、そして患者(1)と同行喫食した4名がO26陽性であったことから、保健所は集団感染を疑い、感染拡大を防止するため9月6日・7日に電話相談窓口を開設した。図1の病原体保有者(7)〜(13)はこの電話相談で検便を実施したもので、症状は無いか、有っても軽症であった。(7)(8)と(13)は8月26日にA店で喫食し、(9)〜(12)は同日A店から購入した食品を自宅で喫食した1グループのうちの4名であった。また、これらの接触者についても検便を行った。(9)と(10)、(11)と(12)は兄弟で、BとC保育園に通園していたことから、これらの保育園の園児・職員の検便を行った結果、B園園児1名(14)から当該菌を検出した。さらに9月20日には家族への二次感染も判明した(15)。本事例の感染者数は、患者2名と調理従事者1名を含む16名となった。また、O26を検出した食品(ギアラ)は、曝露日と考えられる8月26日の残品ではなく、その後8月31日に購入し施設内で細片調理したものであった。
細菌検査は合計で便471件、ふきとり40件、A店で焼肉として提供していた食品10件について実施した。分離培地はCT加ラムノースマッコンキー培地を使用し、食品についてはノボビオシン加mEC培地で増菌培養したのち分離培養を行った。ほとんどの便で当該菌が分離培地に優位に集落を形成したが、(13)と(15)では常在菌と混在し、しかも18時間培養では微小集落で、通常の大きさの集落には24時間以上の培養が必要であった。食品は10gを増菌培地を使って10倍試料液を作製して直接分離培養を試みたが、集落の形成はみられず増菌後のギアラのみから当該菌を検出した。
食品と便から分離した菌株のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)の結果(図2)は、(13)の便とFの食品由来株が他の株と1バンド異なるパターンであったが、すべて同一起源に由来するものと考えられた。
以上の結果より、8月26日にA店で提供された食品が感染源と考えられた。しかし、感染経路については、保存中のギアラや調理従事者がO26陽性であったことで、施設内の二次汚染が示唆されたが、特定できなかった。なお、8月26日以外の他日での感染者はみられなかった。
EHEC感染症においては家族などへの二次感染が多いことが特徴であり、本事例においても2名の二次感染者があった。さらに、治療後の再排菌もあり経過は約1カ月に及んだが、この感染者の陰性を確認し終息となった。
最後にPFGEによる解析を実施してくださいました新潟県保健環境科学研究所の細菌科の皆様に深謝いたします。
新潟市衛生試験所
新潟市保健所