ヒトのペスト、2006年−米国4州

(Vol.28 p 18-19:2007年1月号)

2006年にはヒトのペスト症例が4州から計13例報告されており、1年間の報告数としては1994年以来最多である。報告があったのはニューメキシコ州(7例)、コロラド州(3例)、カリフォルニア州(2例)、およびテキサス州(1例)である。発症日は2月16日〜8月14日で、2例(15%)が死亡した。年齢中央値は43歳(13〜79歳)で、8例(62%)が女性であった。5例(38%)は原発性敗血症型ペストで、8例(62%)は腺ペストであった。本稿では13例のうちの6例について要約する。

症例1:2月17日、テキサス州在住の39歳男性が高熱、譫妄、悪心、嘔吐で入院した。血液培養でペスト菌が検出され、後になって腋窩リンパ節腫脹(bubo)も認められた。患者は抗菌薬治療で回復した。発症前にニューメキシコ州にウサギ狩りに出かけており、その屠殺体から培養されたペスト菌のPFGEパターンは、患者からの分離株と一致した。

症例2:4月17日、カリフォルニア州在住の28歳女性が発熱、敗血症性ショック、有痛性の右腋窩腫脹で入院し、血液培養でペスト菌が検出された。患者は抗菌薬治療に反応した。同州Kern郡で屠殺されたウサギの生肉を扱っており、その地域のウサギの死体から分離された株と、患者から分離された株のPFGEパターンは一致した。患者との接触者計16名が抗菌薬の予防投与を受けた。

症例3:5月17日、ニューメキシコ州在住の54歳女性が発熱、強度の腹痛、血便で緊急治療センターを受診した。リンパ節腫脹はなかったが、吐血と急性呼吸困難を生じ、別の病院に移送後まもなく死亡した。剖検での血液と肺の培養でペスト菌が検出された。患者の飼い犬1頭と住居敷地内で捕獲されたイワジリス1匹で、過去にペスト菌感染があったとする血清学的所見が得られた。

症例4:5月25日、ニューメキシコ州在住の45歳男性が悪心、嘔吐、発熱、肺炎で入院した。呼吸困難のために挿管され、入院時採取の血液培養でペスト菌が検出された。最終的に患者は回復した。挿管前に患者と接触した病院職員少なくとも37名が、ドキシサイクリンの予防投与を受けた。患者の飼い犬2頭で、過去にペスト菌感染があったとする血清学的所見が得られ、住居敷地内で捕獲されたモリネズミに付着していたノミから、ペスト菌が分離された。

症例5:7月9日、コロラド州に住む30歳男性が発熱、悪心、嘔吐、右鼠径リンパ節腫脹を生じ、病院救急部を受診したが、いったん帰宅した。3日後に再受診したときには、敗血症と両側肺浸潤で入院となった。ペストが疑われて飛沫/空気感染予防策がとられたが、抗菌薬治療で回復した。血液およびリンパ節吸引検体の培養でペスト菌が検出された。飛沫/空気感染予防策がとられる前に曝露を受けた病院職員5名に、ドキシサイクリンの予防投与がなされた。患者の飼い犬1頭で、過去にペスト菌感染があったとする血清学的所見が得られ、住居付近で採取された2種類のノミからペスト菌が分離された。

症例6:7月18日、ニューメキシコ州に住む43歳女性が嘔吐、下痢、腹痛、発熱でクリニックを受診した。最近イヌに咬まれており、蜂窩織炎疑いとして治療を受けた。翌日、症状悪化と左鼠径部の疼痛のため再受診し、救急部に緊急移送されたが、鼠径リンパ節腫脹がみられ、ペストが疑われた。抗菌薬投与を受けたが、7月22日に死亡した。血液培養でペスト菌が検出された。住居敷地内で捕獲された動物、すなわちネズミ、イワジリス他では、ペスト菌感染は確認されなかった。

米国では、ペストによる死亡例のほとんどすべては診断や治療の遅れと関係している。説明不可能な発熱、敗血症の疑い、あるいは肺炎があり、かつペスト流行地域(例:米国西部)に居住や旅行をしていれば、リンパ節腫脹の有無にかかわらずペストを疑い、検査確定を待つことなく適切な抗菌薬治療を開始すべきである。

(CDC, MMWR, 55, No.34, 940-943, 2006)

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