保育所で発生した腸管出血性大腸菌O26による集団感染事例−佐賀県

(Vol.28 p 14-15:2007年1月号)

2006年8月、県東部の保育所において、園児および家族に腸管出血性大腸菌(EHEC) O26:H11(VT1)による集団感染事例が発生したのでその概要を報告する。

2006年8月12日(土)、医療機関から2歳女児のEHEC O26 (VT1) (以下O26)の感染症発生届が保健所に提出された。患者は、8月2日から下痢を認め、8日に医療機関を受診し、12日にO26が検出された。血便は認めなかった。

保健所では直ちに家族からの聞き取り調査を実施し、患者は保育所(園児241名、職員49名)に通っていることが判明したことから、疫学調査と検便を保育所園児とその家族、および職員を対象に実施することとした。疫学調査と検便は、登園者は直ちに可能であったが、お盆の帰省の時期で欠席者が多く、欠席者へは順次連絡を取って実施することとなった。

便の検査は、シードスワブにより採便し、セフィキシム亜テルル酸カリウム添加1%ラムノース加マッコンキー寒天培地で直接分離培養を行い、平行してTSB培地37℃6時間培養後、免疫磁気ビーズ法で集菌し分離培養を実施した。分離された疑わしいコロニーは、O26診断用免疫血清で血清凝集反応を行い、さらにPCR法によりVero毒素の確認を行った。

検便の結果、初発患者を含む園児23名、家族等7名からO26が検出された。職員49名、およびクラスごとにある園児用トイレのふきとり検査からはO26は検出されなかった。その後、感染の拡大状況、終息状況の確認のため、8月29日に園児・職員を対象とした2回目の検便を実施し、新規陽性者が7名、再陽性者が4名あった。さらに9月25日に園児を対象とした3回目の検便を実施した結果、再陽性者が4名あった。最終的に、菌陽性者は園児30名、家族等8名、計38名となった。

検出されたO26全菌株について、佐賀県衛生薬業センターにてパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)で遺伝子解析を実施した結果、すべての菌株が同一パターン(図1)であった。表1は菌陽性者のクラス別内訳である。O26陽性者は初発患者のクラスである1歳児クラスに集中しており、他のクラスの陽性者は1歳児クラスの兄弟がほとんどであった。1歳児クラスとその兄弟以外の陽性者は、1歳児クラスの園児との接触(簡易プールの共有等)が明らかな園児であった。また、喫食調査から感染経路を特定することはできなかった。

O26陽性者の陰性確認については、症状の有無にかかわらず、服薬終了後48時間以降に行うこととしたが、陰性確認後に行った一斉検便で再陽性者が7名、再々陽性者が1名みられた。再陽性となった園児から検出された菌について薬剤耐性検査(ABPC、PIPC、CEZ、FOM等、22種類の薬剤)を行ったが、薬剤耐性は認められなかった。最初の感染症発生届出から最終の陰性確認までに、62日間を要した。各個人のO26検出から陰性確認までは平均12日であったが、31日を要する例もあり、再陽性例や再々陽性例が見られたこととも合わせ、除菌の困難な例が見られた。

今回のO26集団感染に関しては、有症者は2名のみであり、感染者のほとんどが検便によって感染が判明した無症状病原体保有者であった。無症状病原体保有者は感染しても症状がないことから、保育所での感染が判明したときには、すでに感染の広がりが進行していたと思われる。他のクラスへの感染拡大が大きくなかったのは、クラスを越えてのトイレの共有がなかったこと、職員への感染がなかったこと等が考えられた。

疫学調査や、検便および菌株の遺伝子解析等の結果から、最初に1歳児クラスの園児への感染があり、トイレットトレーニングを行っている1歳児クラスにおいて感染が広がり、さらに家族内感染、簡易プールの共有等により他のクラスの園児に陽性者が出たものと推測された。保育所における感染症の予防・拡大防止のためには、トイレットトレーニングを行う幼児の手洗い、保育従事者の幼児の排便後の適切な処理、簡易プール等の衛生管理の徹底が重要であると考えられた。

佐賀県鳥栖保健福祉事務所 川内保典 中島歌与子 堀部俊一 仲井宏充
佐賀県佐賀中部保健福祉事務所 甘利祐美子 吉田 緑 吉原琢哉 渡辺惠美子
佐賀県衛生薬業センター 徳永日出乃 眞子純孝 舩津丸貞幸
佐賀県健康増進課 森屋一雄

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