搾乳体験で腸管出血性大腸菌O157による感染が疑われた事例−横浜市

(Vol.28 p 13-14:2007年1月号)

2006年10月2日、市内A区在住の1歳女児1名が、腸管出血性大腸菌O157(以下O157)感染症と診断され、福祉保健センターに届出があった。この女児は9月26日に発症し、発熱、血便を呈した。29日に近医を受診し、10月2日にそこでO157:H7、VT1&2産生菌が検出され、3日に同区の病院に入院した。10月3日に採取されたその家族4名の便検査を当所において実施したところ、5日に9歳の兄からもO157:H7(VT1&2)が検出された。なお、家族のうち9月27日に下痢を呈していたと申告した母親からは検出されなかった。この家族は9月24日に5名でB区の牧場の搾乳体験に参加し、子供3名がウシの搾乳とミニ動物園で触れあい体験をしていたことが判明した。また、搾乳体験用のウシ2頭とその近くで飼育されていたウシ3頭、計5頭の糞便よりO157の検出を当所で試みた。その結果、2頭からO157:H7(VT1&2)が検出され、うち1頭は23日の搾乳体験牛であった。これらヒト由来2株(、レーン1、2)とウシ由来2株(、レーン3、4)のXba Iを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による分子疫学的解析を行ったところ、同一パターンを示し、搾乳体験による感染事例であることが示唆された。この結果をうけて8日以降の搾乳体験は中止された。また、B福祉保健センターは、再発防止のため、同牧場に対し、搾乳体験など動物との触れあい体験後の手洗いの重要性について、ポスターやチラシを用いて来園者への啓発を強化するよう指導を行った。さらに、設備面で体験後来園者が手を洗う環境を整えるため、手洗い器と殺菌剤の増設を指示した。家畜衛生の面では、家畜保健衛生所から、飼養衛生管理について指導を行った。

続いて、10月14日にC区の3歳女児(保育園児)が同区のクリニックを受診した。この女児は、10月13日に発症し、腹痛、水様便、血便を呈した。18日にそこでO157:H7(VT1&2)が検出され、福祉保健センターに届出がされた。19日には家族3名の検便を当所で行い、21日に生後11カ月の弟(保育園児)からO157:H7(VT1&2)が検出された。この家族も9月23日に4名で同牧場の搾乳体験をしていた。この家族は29日にも隣市の観光施設で動物との触れあいをしていたが、そこで飼育されていたウシは1頭で、11月2日に便はO157陰性であることが判明した。この2株(、レーン5、6)のPFGEによる解析結果は、前記ヒト由来株(、レーン1、2)およびウシ由来株(、レーン3、4)と同一パターンを示し、この事例も、搾乳体験による感染であることが示唆された。なお、女児らの通っている保育園児と職員の検便124検体についても検査を行ったが、O157は検出されなかった。なお、今回の発症者の1名(、レーン5)は潜伏期間が20日間と比較的長かった。

10月16日に当該牧場のウシ全47頭について神奈川県の家畜保健衛生所で検査が実施され、11株のO157:H7(VT1&2)が分離された。これら11株の分与を受け、PFGEによる解析を試みた。その結果、 11株のうち1株を除いた10株は前記のウシ由来2株、およびヒト由来4株と同一パターンを示した。

今回の事例は、搾乳体験牛を含むウシ由来12株(12頭)とヒト由来4株、計16株のPFGEによる解析の結果が同一であったことから、搾乳体験による感染が強く示唆された。酪農啓発施設で飼育牛が感染源となった腸管出血性大腸菌による感染事例は、千葉市(IASR 25:302-303, 2004参照)において報告されている。このような事例の発生の把握や感染源の究明には、疫学的調査の重要性とPFGEによる分子疫学的解析の有用性があらためて認識された。

横浜市衛生研究所
武藤哲典 松本裕子 山田三紀子 石黒裕紀子 北爪晴恵 佐々木一也 鳥羽和憲
横浜市健康福祉局健康安全部感染症課

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