腸管出血性大腸菌の集団感染事例−静岡市

(Vol.28 p 46-47:2007年2月号)

2006年9月に静岡市内で2件の腸管出血性大腸菌(EHEC)の集団感染が発生したので、その概要を報告する。

事例1:2006年9月5日に静岡市内の医療機関より、1歳6カ月の保育園児のEHEC O26(VT1)の発生届が保健所に提出された。保健所は当該保育園に調査に入り、十数名の園児に下痢、軟便等の症状があることを確認し、9月6日には同じ保育園の同じクラスに通う別の園児からもEHEC O26(VT1)の発生届が提出された。

保育園は園児212名(0歳児9名、1歳児33名、2歳児35名、3歳児40名、4歳児52名、5歳児43名の各クラス)、職員44名で、0歳児クラスと1歳児クラスは同じ教室であるが、サークルによって区画されており、2〜5歳児クラスはクラスごとに教室を分けていた。0〜3歳児クラスは1階、4、5歳児クラスは2階の教室を使用していた。園内にあるプールは2〜5歳児クラスが使用し、0歳児クラスはベビーバスで個別に水浴びを行い、1歳児クラスは簡易プールを主に使用し、0歳児クラスとは別にベビーバスも使用していた。また、園内の調理場で調理された共通の食材を用いた給食が提供されていた。

発症は8月23日に始まり、土日をはさみ、8月31日をピークに、9月6日までほぼ毎日発症者が発生しており、症状を呈している園児は18名で、0、1歳児クラスに限られていた(図1)。

当所では9月7日から園児、職員、一部の園児の家族の計182名の検便と、施設のふきとり6検体の検査を実施し、新たに園児16名および園児の親1名からO26を検出した。職員、ふきとりからは検出されなかった。保育園は検査結果を受け、陽性の園児の隔離保育を開始した。陽性者は届出患者も含めて0歳児クラス1名、1歳児クラス15名、2歳児クラス1名、3歳児クラス1名と、陽性園児の親1名であり、有症者は0歳児クラス1名、1歳児クラス11名であった。

9月13日以降、陽性者の家族44名の検便を実施し、さらに11名からO26が検出され、本事例の最終的な陽性者の数は30名であった。家族の陽性者はすべて無症状であった。その後の経過確認のため、排菌が陰性化するまで陽性者の検便を実施したが、一部の園児からは排菌が続き、一人の園児は陰性確認後にも再排菌がみられた。最終的に11月16日搬入の検体ですべての陰性化が確認された。

検査は直接および増菌培養法を併用して行い、分離培地はCT- ラムノースマッコンキー培地を用いた。増菌培養法はノボビオシン加mEC培地にて培養後、免疫磁気ビーズにより集菌し、分離培養を実施した。分離株の性状はすべてO26:H11で、PCR法およびRPLA法により、すべてVT1陽性であった。制限酵素Xba Iを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を実施したところ、陽性者29名の株は同一のバンドパターンを示し、1名の株は1バンド異なっていた(図2)。また、排菌が1カ月以上続いた3名の最後に検出された株についてもPFGEを実施したが、バンドパターンに変化はなかった。

本事例では、菌陽性者がほぼ0、1歳児クラスに限られており、2〜5歳児クラスからは発症者はなく、菌陽性者が2名のみであったことや、発症時期が分散していることなどから、給食等を原因とした単一曝露による集団感染とは考えにくく、感染源の特定はできなかった。感染が拡大した原因としては、症状が認められたほとんどの園児が発症後もプールを使用していたことや、オムツの使用、指しゃぶり等の行動などが考えられた。

事例2:2006年9月19日と9月20日に静岡市内の医療機関より、3名の小学生のEHEC O111(VT1&2)の発生届が保健所に提出された。そのうち1名は溶血性尿毒症症候群(HUS)を呈し入院していた。保健所は3名が同じ小学校の5年生であり、同様の症状を示している生徒が他にも存在するとの情報を受け、小学校に調査に入り、5年生の数名に腹痛、下痢等の症状があり、他の学年には発症者がないことを確認した。小学校では5年生が9月6日から2泊3日で野外体験教室を実施していた。体験教室のプログラムで2日目の9月7日に2グループに分かれて酪農体験を行っており、症状を呈しているのは、片方のグループに限られていた。発症状況は、大半が9月12日、13日に発症が集中していた。

当所では9月20日から、野外体験教室に参加した生徒、教員、発生届のあった生徒の家族の計126名の検便を実施し、新たに症状のあった生徒2名からO111を検出した。陽性者の家族17名の検便を実施したが、すべて陰性であった。また、野外体験教室中の宿泊施設の従業員便と保存されていた検食、酪農体験を行った二つの牧場の牛糞、生乳、牛体、器具のふきとり、従業員便等について当該施設のある富士保健所が検査を実施したが、O111は検出されなかった。

当所での検査は、直接および増菌培養法を併用して行い、分離培地はCT- ソルボースマッコンキー培地を用いた。増菌培養法はノボビオシン加mEC 培地にて培養後、免疫磁気ビーズにより集菌し、分離培養を実施した。分離株の性状はすべてO111:H- で、PCR法およびRPLA法により、すべてVT1&2陽性であった。制限酵素Xba Iを用いたPFGEを実施したところ、陽性者4名の株は同一のバンドパターンを示し、1名の株は1バンド異なっていた(図2)。

本事例では発症者はすべてのクラスに存在し、普段の接触はなく、共通点は酪農体験を同じ牧場で行ったということだけであったが、牧場からは当該菌は検出されず、感染源は特定できなかった。しかしながら、菌陽性者は発症時期がほぼ一致していること、PFGEの結果を考えると、何らかの同一起源による集団感染症であると示唆された。

静岡市衛生研究所
金澤裕司 石川智之 福田桂子 清水浩司郎 北條圀生

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