北海道のスズメ大量死事例から見出されたSalmonella Typhimurium DT40感染症

(Vol.28 p 49-51:2007年2月号)

2005年12月頃より、北海道道央〜道西にかけてスズメの死体が頻繁に観察されるようになり、2006年7月28日現在、道庁の発表によると、その数は1,517羽に達し、数に差はあるが14支庁全域と広範囲の地域にわたって発見されている(表1)。特に4月に入り、雪解けが進むにつれて、解けた雪の下からスズメの死体が発見される事例が目立った。そのために、ほとんどの死体が腐敗、乾燥しており、厳寒期以前に死亡したものと推察された。また、北海道各地でスズメの個体数の減少や、餌台に来るスズメが衰弱して死亡するなどが報告されているが、2006年5月以降には死体の発見例はほとんどみられなくなった。これらのスズメを対象として、ある研究機関が病理検査、細菌検査を行い、6羽中6羽にそ嚢炎を観察し、うち1羽からブドウ球菌を分離したが、明確な死因は特定されなかった。また、他の研究機関の検査によって融雪剤中毒の可能性も挙げられたが、十分な証拠は得られず、これまでに大量死を説明できるような原因は明らかにされていない。

そのような状況下、今回、多くのスズメの死体が発見された旭川市と登別市で収集されたスズメを検索し、Salmonella Typhimurium感染症を見出したので報告する。

2006年4月14日登別市内で2羽と、時同じくして旭川市内で6羽が、北海道スズメネットワークの関係者により収集、当研究室に送付され、計8羽について病理学的、微生物学的および分子生物学的に検査を行った。

その結果、登別由来2羽ともに同様の肉眼像を示した。腐敗のため、内臓諸器官の観察は不十分であったが、そ嚢壁のび漫性肥厚が顕著で、壁厚は1mmに達し、粘膜は粗造であった。旭川例6羽中1羽にも同様の変化が観察された(図1)。3羽ともに組織学的には細菌性そ嚢炎が特徴的で、Salmonella O4型血清抗体を1次抗体とした免疫染色でそ嚢3羽、肝臓1羽、腸1羽の組織中の菌が陽性となった。直接培養ではSalmonella を検出できなかったが、増菌培養によって8羽中3羽の臓器からS . Typhimuriumが計5株分離された。これらの分離菌株は、すべてファージ型DT40で、同一の薬剤感受性パターンを示し、また、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)検査をした3羽3株すべてが同一パターンを示した(図2)。

野生のスズメ目の鳥のS . Typhimurium感染による大量死は、1955年スイスで初めて報告されて以来、イギリス、ドイツ、スウェーデン、デンマーク、アメリカ、カナダ、ノルウェーおよびニュージーランドなど、多くの国で報告されている。特にフィンチ類の大量死がほとんどで、特にスズメで、劇的な個体数の激減を引き起こしているとされている。

今回の北海道事例は、冬から春に発生し、スズメの死体が餌台付近や巣箱内で多数発見され、一部ではあるが、特徴的なそ嚢病変がみられ、これらの所見は諸外国の大量死例と一致した。

調べた限りでは、日本には今までに、スズメの大量死事例は見当たらず、健康なスズメからS . Typhimuriumが分離されたという報告もない。このため、この報告が本邦初のスズメのS . Typhimuriumによる感染症事例となった。

日本において、サルモネラは食中毒菌としてよく知られているが、食中毒の原因としてS . Typhimuriumが分離されることは少なく、本月報Vol.27、No.8 (2006)によれば、2003年 175/2,290(7.6%)、2004年 108/1,367(7.9%)、2005年49/1,320(3.7%)である。また、野鳥を対象とした調査では、88検体中3検体(カラス、サギ、キジ)から分離されているが、スズメからは分離されていない。また、見かけ上健康なハト 114羽中11羽陽性といった報告がある。いずれにしても、野鳥におけるS . Typhimurium保菌率は一般的に低く、さらに、致死的になることは少ないと考えられる。

また、1980〜1995年の間に家畜より分離された1,226株の血清型を調べた報告では、計59血清型が同定され、牛ではDublinとTyphimuriumが84%を占め、豚では、Choleraesuis、TyphimuriumとDerbyが71%、ニワトリでは49血清型と多岐にわたり、Agona、Hadar、Enteritidis、Typhimurium、Sofia、Havana、Mbandakaが主要な血清型であった。

このように、S . Typhimuriumは低率ではあるが、ヒト、家畜、野鳥から分離されている。しかしながら、日本国内で分離されたヒト由来および動物由来のS . Typhimurium 221株のファージ型を調べた報告では、DT104が39.8%を占め、続いてDT193、DT194、DT99で、この報告以後2006年までその傾向は変わらず、DT40が過去に検出されたことはなかった(unpublish data)。

今回確認されたDT40は、イギリス、北米やノルウェーにおいてスズメの大量死にかかわる重要な型とされる。国内では、これまでヒトからも動物からも検出されたことのないDT40が、どのようなルートあるいはメカニズムにより、北海道で死亡したスズメから検出されるようになったのか不明であった。

また、今回対象としたスズメは大量死のみられた地域および流行時期に得られた材料であったが、北海道各地で報告されたスズメの大量死とどのような関連があるのか、検体数が少ないので現在のところ判断できない。しかしながら、死亡したスズメの一部には、S . Typhimurium感染症が含まれていることは事実である。

ニュージーランドやノルウェーでは、スズメの集団死と時期同じくして、ヒトのS . Typhimurium症の集団発生があり、その感染源としてスズメが考えられている。また、アヒルやウズラでも、スズメに起因するS . Typhimurium致死例が発生し、産業動物への伝播が危惧されている。

さらに、諸外国では、S . Typhimuriumの野鳥群への浸淫によって、壊滅的ダメージを受けた鳥種もあるとされる。特にフィンチ類はS . Typhimuriumに高感受性を示すため、この種の在来種への影響が懸念される。

日本におけるスズメの行動圏は季節により異なり、なわばりを持つ成鳥では約200mと狭いが、秋になると若鳥は集団をなし、近隣でなわばりをもてなかった場合、数10km、ある報告では100〜400kmを移動するとされている。さらに北海道から夏鳥としてカワラヒワが本州に渡ってきている。このため、現在は北海道の2カ所で確認された事例であっても、鳥の拡散と相まって、S . Typhimuriumも拡散する可能性が極めて高いため、公衆衛生上、動物衛生上、および種の保全も含めて十分な警戒が必要である。

 文 献
1) Alley MR, et al ., NZ Vet J 50: 170-176, 2002
2) Daoust PY, et al ., Can Vet J 41: 54-59, 2000
3) Fichtel CC, North American Birds Bander 3: 146-148, 1978
4) Handeland K, et al ., Epidemiol Infect 128(3): 523-527, 2002
5) Izumiya H, et al ., J Clin Microbiol 39(7): 2700-2703, 2001
6) Kruse H, et al ., Emerg Infect Dis 10(12): 2067-2072, 2004
7) Pennycott TW, et al ., Vet Rec 158: 817-820, 2006
8) Refsum T, et al ., J Wildl Dis 39(1): 64-72, 2003
9) Refsum T, et al ., Appl Environ Microbiol 68(11): 5595-5599, 2002
10)Tizard IR, et al ., Can Vet J 20: 143-144, 1979
11)Thornley C, et al ., Emerg Infect Dis 9(4): 493-495, 2003
12)Human Salmonella isolates, Public Health Surveillance [online], URL; http://www.surv.esr.cri.nz/enteric_reference/human_salmonella.php
13)Salmonellosis in Michigan Songbirds, Department of Natural Resources Michigan [online], URL; http://www.michigan.gov/dnr/
14)Salmonella research completed, Ministry of Agriculture and Forestry[online] Thursday, 25 July 2002, URL; http://www.scoop.co.nz/stories/SC0207/S00030.htm
15)IASR : 191-192, 2006
16)Pennycott TW, Deaths in Finches and Sparrows, uk.rec.birdwaching; February 12th 2001, [online],URL; http://www.bvpa.org.uk/papers/penn01wb.htm
17) Whitney H, Salmonella in songbirds, Government of Newfoundland and Laborador [online], July 27,2004, URL; http://www.gov.nl.ca/agric/

麻布大学獣医学部病理学研究室 宇根有美 三部あすか
麻布大学獣医学部公衆衛生学第2研究室 加藤行男 鈴木 智 仁和岳史
国立森林総合研究所 川上和人
国立感染症研究所 泉谷秀昌 渡辺治雄

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