保育施設におけるESBL産生性細菌性赤痢の集団発生事例―堺市

(Vol.28 p 45-46:2007年2月号)

2006年10月下旬に認可外保育施設で、細菌性赤痢の集団発生があり、extended-spectrum β-lactamase(ESBL)産生性が確認されたので、その概要を報告する。

10月26日、市内A医療機関から3歳男児の細菌性赤痢の発生届が出された。27日には、B医療機関から3歳男児、C医療機関から4歳女児の発生届が出された。3名とも同一の市内認可外保育施設に通園していたため、保健所が10月13日〜27日の期間の園児の健康状況等の調査を行ったところ、届出患児以外にも発熱・下痢等の症状を呈する園児が10名認められた。23日には届出患児を含めて13名欠席していたことも判明した。発症状況は図1に示す。当該保育施設に対する感染防止等の指導と併せて、27日より対象者(園児29名、職員6名、家族46名)の検便を実施した。給食は当該保育施設で調理されていたため、最初の患児の発症日10月22日から逆算し、18〜21日の給食を疑ったが、保存されていた検食はなかった。その後、陰性が確認される12月6日までに、総検体数128件の細菌検査を実施した。

細菌検査の最終結果は、患児を含め園児10名、保護者3名の合計13名から菌が検出された。27日に行った調理室のふきとり10検体、ろ過水1検体はすべて陰性であった。

検出された13菌株はすべてShigella sonnei I相で定型的な生化学的性状を示し、PCR法によりinvE およびipaH の保有を確認した。制限酵素Xba I処理によるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンについて、FingerprintingII(BIO-RAD)による解析の結果、No.7以外の菌株は相互に100%の相同性を示し、No.7の菌株も他の株と97.4%の相同性を示した(図2)。

薬剤感受性試験(KB法)では、すべての菌株は12薬剤中6薬剤(ABPC、CTX、SM、TC、NA、ST)に耐性を示す多剤耐性菌であった(KM、GM、CP、CPFX、NFLX、FOMには感受性)。CTX耐性を示すためESBL産生菌であることを疑い、Clinical Laboratory Standards Institute(CLSI)の提示に準じて、βラクタマーゼ阻害効果のあるクラブラン酸(CVA)添加感受性ディスクを併用したダブルディスク法により、酵素活性阻害の有無を確認した。ディスクはCTX、CTX/CVAおよびCAZ、CAZ/CVAを使用し、CVA入りディスクに阻止円の拡大が認められた。この結果から、ESBL産生性が確認された。

ESBL産生菌については、1983年に第三世代セフェム系薬剤に耐性を示したKlebsiella pneumoniae が初めて報告され、以降、世界的に臨床材料から分離されるようになり、その拡大が問題視されている。ESBL産生性が腸内細菌科の菌種に拡大しつつあるなか、Shigella 属における報告はまだまれであるが、ESBL産生性のS. sonnei による国内初めての症例報告がなされている(IASR 27: 264-265, 2006)。

今回のESBL産生性S. sonnei 集団感染事例では、保護者および職員全員に最近の海外渡航歴はなく、保存食も無かったこと、施設のふきとり検体が陰性であったこと等から、感染経路の特定には至らなかった。また、保護者3名は、患児より3日以上遅れて発症している点から、二次感染と考えられた。

赤痢菌は微量の菌により感染が成立するため、二次感染による感染の拡大が起こりやすいと考えられている。予防対策は陽性者の早期治療、排菌していないことの確認検査である。今回の事例では、11月24日に対象者全員の排菌陰性確認を行い、さらに12月4日には園児と陽性であった保護者の陰性確認を行った。

11月7日以降に新たな感染者の発生はなく、保健所健康危機管理対策本部にて集団発生事例は終息したと判断された。

堺市衛生研究所
下迫純子 山内昌弘 横田正春 中村武 大中隆史 田中智之
堺市保健所
藤井史敏 松本恵美子 柴田仙子 福田雅一

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