アメーバ性肝膿瘍は、腸管に感染したアメーバ原虫が腸壁より血行性に肝臓に移行することで形成される。アメーバ性肝膿瘍の発生には、性差が影響することが知られており、女性での発生は男性に比べまれである。当院では、これまでに女性のアメーバ性肝膿瘍症例を3例経験しているので報告する(表1)。
症例1:35歳女性。1998年10月下旬より発熱、右背部痛を自覚し、近医を受診。経過観察中に、肝機能異常を認め、腹部超音波検査施行し、肝臓右葉内に径10cmの単発性の腫瘤を認めた。血清アメーバ抗体400倍を認め、アメーバ性肝膿瘍の診断にて12月9日当院転院となる。当院入院時に実施した便原虫検査からは栄養型が検出された。入院後、メトロニダゾール投与、膿瘍穿刺を行い、臨床症状の改善を認めた。本症例は、commercial sex worker(CSW)であり、東南アジアへの海外渡航歴も認めた。入院時検査にてHBs抗原陽性、梅毒血清反応陽性(RPR陰性、TPLA陽性)を認めた。
症例2:32歳女性。1999年5月27日より発熱、右季肋部痛を認め、6月1日近医を受診。同日肝臓内に腫瘤性病変を指摘される。6月3日A大学病院を受診。腹部CTにて肝右葉に径5cmの単発性の肝膿瘍を認め、膿瘍ドレナージを留置された。膿瘍穿刺液よりアメーバ原虫が証明され、アメーバ性肝膿瘍の診断にて6月9日当院転院となった。当院転院後、メトロニダゾール投与を開始し、臨床症状の改善を認めた。本症例は、海外渡航歴を認めず、性的なパートナーが複数存在した。1997年に急性C型肝炎を発症しており、当院でのHCV 抗体検査においても陽性であった。
症例3:40歳女性。2005年9月1日より心窩部痛出現。9月5日39℃台の発熱が認められ、前医を受診。9月9日腹部CT施行され、肝右葉に径4cmの膿瘍を認め入院となる。前医入院後、9月14日膿瘍ドレナージを実施。9月15日より右胸水が出現したため、胸腔ドレナージが留置された。前医入院時に行われた血清アメーバ抗体は陰性であり、膿瘍穿刺液からは、アメーバ原虫は確認されなかった。セフェム系、カルバペネム系抗菌薬などが投与されるも臨床症状の改善に乏しく、9月21日当院転院となる。当院入院時に実施した血清アメーバ抗体は陽性であり、アメーバ性肝膿瘍の診断となった。メトロニダゾール投与を開始し、臨床症状の改善を認めた。
考 察
アメーバ性肝膿瘍の発症には、年齢・性差が影響していることが知られている。小児での発症例は少なく、95%以上は成人が占めている。成人においても、特に18〜50歳の男性の罹患率が高い1)。無症候性感染例には性差は認めないが、肝膿瘍症例の男女比は2:1〜10:1と男性に多い2, 3) 。アメーバ性肝膿瘍に性差が認められる原因は明らかではないが、アルコール摂取量4)、免疫応答の差異5)、ホルモンの影響6)などが考えられている。
当院では、2006年までに49例のアメーバ性肝膿瘍を経験しているが、女性の症例は今回示した3症例であり、他の報告と同様に男性が圧倒的に多い(図1)。
アメーバ症は、性感染症(STD)の側面を持ち合わせており、特に男性同性愛者において糞口感染のリスクが高い。我々の症例でも、感染経路の4割は男性同性間であると推定されたが、異性間感染例も少なからず存在していることが示されている(図1)。
今回の3症例から、感染のリスクとして海外渡航歴も確認されたが、生活歴・既往歴より、CSWの経験、複数の性的パートナーの存在、ウイルス性肝炎・梅毒の罹患歴も確認されており、STD の感染リスクについての評価もアメーバ性肝膿瘍の診断に重要であることが示された。
肝膿瘍症例を見た場合には、女性であってもアメーバ性肝膿瘍を必ず念頭に置き、感染リスクの評価を行った上で、抗体検査・原虫検出などの適切な検査法により積極的に診断を行う姿勢が必要とされる。
文 献
1) Samuel L Stanley Jr, Lancet 361: 1025-1034, 2003
2) Petri WA Jr, et al ., Clin Infect Dis 29: 1117-1125, 1999
3) Acuna-Soto R, et al ., Am J Gastroenterol 95: 1277-1283, 2000
4) Makker RP, et al ., Intern Med 42: 644-649, 2003
5) Lotter H, et al ., Infect Immun 74: 118-124, 2006
6) Gill NJ, et al ., Trans R Soc Trop Med Hyg 77: 53-58, 1983
東京都立駒込病院感染症科 菅沼明彦
東京都立駒込病院外科 渡部涼子