2006(平成18)年12月13日〜17日にかけて8小中学校にまたがる食中毒が発生し、原因はノロウイルスによって汚染された給食のパンであるものと考えられた。生カキ事例以外では食品が特定されたケースは少ないので、今後の食中毒調査のための参考事例として詳細を報告する。
上記の5日間で教職員と生徒を合わせて1,440人中366人が発症した。発症者20人の検便を実施したところ、14人からノロウイルス genogroup (G) IIが検出された。複数の学校にまたがった食中毒であることから給食センターが疑われたが、本事例では2つの給食センター(Aセンターは5小中学校、Bセンターは3小中学校)が関与していた。2つの給食センターはそれぞれ独立して調理を行っており、同じタイミングで食中毒を起こす確率は低いことと、調理員に対して行った検便でもノロウイルスは検出されなかったことから、給食センターそのものが原因となった可能性は低いと判断された。次に2つの給食センターに共通した要因を検討したところ、同じ製パン業者が両センターに食パンやコッペパンを納入していたことが判明した。残存していたパンそのものからのウイルス検出はできなかったものの、製パン業者の従業員6人の検便を実施したところ、無症状の1人からノロウイルスGIIが検出された。この時点で従業員は自社製造のパンを食べていないことが確認されているため、感染の方向は「従業員からパン」との推定のもとに遺伝子解析等の作業を進めた。
糞便の検査は、プライマー「COG2F」、「COG2R」、「ALPF」とTaqManプローブ「RING2AL-TP」、およびロシュ社製LightCycler®を用いたリアルタイムPCRにより行った。また、陽性となった検体に対してビオチンラベルされたプライマー「G2-SKF」と「G2-SKR」によるPCRを行い、一本鎖高次構造多型解析(SSCP解析)によりパターンを照合した。その結果、発症者14人と従業員から検出されたノロウイルスのSSCPパターンが一致したため、パンに付着したノロウイルスによる食中毒であったと考えられた。また、SSCP解析を行ったPCR増幅産物のシークエンスを決定したところ、すべて一致し、系統樹では今シーズンの流行の主流であるGII/4類似株として分類された。シークエンスはDDBJのAccession No. AB293425に登録してあるので参照されたい。
パンが原因と考えられるノロウイルスによる食中毒は、わが国でこれまでに何例か報告されているが、加熱製造した後の詰め替え段階で汚染が起きている点は共通している。本事例も手袋等を着用せずに素手で詰め替えを行っていた。発症率は約25%と、食中毒としては低いが、パンへのウイルスの付着は均一なものではないため、ウイルスを取り込まなかった人も相当数いると考えられる。当該業者は給食以外にも一般商店等にパンを納入していたが、患者発生は確認されなかった。ただし、納品数は給食の10分の1程度と少なく、店舗も分散してるため、感染者が顕在化しなかった可能性もある。ノロウイルスの食中毒防止には85℃1分以上の加熱調理が推奨されているが、加熱した後の衛生管理もまた重要であることを示した事例であったといえよう。
秋田県健康環境センター
斎藤博之 柴田ちひろ 門脇さおり 石塚志津子 山脇徳美 高階光榮 長沼 隆
秋田県北秋田地域振興局大館福祉環境部
戸嶋敏博 梅田茂則 佐藤徹也 大石喜美雄 石山 明