秋田県においては1996年以降、毎年30件〜40件前後の腸管出血性大腸菌(EHEC)感染事例が報告されているが、分離株の薬剤耐性にかかわる知見はほとんど得られていなかった。薬剤耐性EHECの出現は公衆衛生上重視すべき深刻な問題である。このようなことから、今回、これまで秋田県で分離されたEHEC菌株のうち、特に分離頻度の高い血清型O157、O26およびO103の計223株に関する薬剤耐性について調査したので、その概要を報告する。
1996〜2006年までに秋田県内で分離されたEHEC菌株のうち、O157(137株)、O26(72株)、O103(14株)を対象とし、センシ・ディスク(Becton-Dickinson)を用いたKirby-Bauer法により薬剤感受性試験を行った。供試薬剤として、アンピシリン(ABPC)、セファロチン(CET)、セフォチアム(CTM)、セフタジジム(CAZ)、セフォタキシム(CTX)、セフェピム(CFPM)、カナマイシン(KM)、ストレプトマイシン(SM)、テトラサイクリン(TC)、ノルフロキサシン(NFLX)、ホスホマイシン(FOM )およびクロラムフェニコール(CP)の計12種類を用いた。
供試した12薬剤のうち、何らかの抗菌薬に耐性を示した菌株は、O157で137株中29株、O26で72株中33株、O103で14株中7株存在した(表1)。秋田県におけるEHEC分離株の約3割は、何らかの薬剤に耐性を持つことが明らかとなった。また、O157ではTC耐性、O26ではABPCとSM耐性が多いなど、血清型により特徴的な耐性パターンを示した。
2004年に分離されたEHEC O103の1株は、第3および第4世代のセフェム系抗菌薬にまで耐性を示した。β-ラクタマーゼ遺伝子(TEM、SHV、CTX-M)を対象に、PCR法にて薬剤耐性遺伝子を検出し、シークエンス解析を行った結果、この菌株はbla CTX-M14を保有する基質拡張型β-ラクタマーゼ産生EHECであることが確認された。
2006年に分離されたEHEC O26の1株は、EHEC感染症の治療に汎用されるFOMに耐性を示した。FOM耐性遺伝子(fosA 、fosB 、PA1129、orf1 )に特異的なプライマーを用いて、PCR法にて薬剤耐性遺伝子の検出を試みたが、耐性遺伝子の特定はできなかった。
本調査で、秋田県の薬剤耐性EHECの侵淫実態が初めて明らかとなった。それぞれの薬剤耐性がどのような遺伝子に起因するのか、伝播の可能性があるかについては今後の検討課題であるが、多剤耐性化やFOMに対する耐性化が全国的に進行している可能性があり、今後もEHECにおける耐性菌の監視が必要と思われる。
秋田県健康環境センター・保健衛生部微生物班
今野貴之 八柳 潤 齊藤志保子 山脇徳美