焼肉店における腸管出血性大腸菌O157集団感染事例−さいたま市

(Vol.28 p 167-168:2007年6月号)

さいたま市内のA焼肉店において食事をした3グループ11名から腸管出血性大腸菌(EHEC)O157:H7 (VT2)が検出されたので概要を報告する。

2006年6月17日に焼肉店で食事をしたスポーツ少年団の団員(11歳男児)が、6月20日に発症し、21日に多量の血便を主訴としてB医療機関を受診した。B医療機関の迅速検査でEHEC O157(以下O157)が検出され、22日にこの報告が医師から保健所に入った。Vero毒素検査の判定前であったため届出基準を満たしていなかったが、症状が激烈であることと、この児童が数日前にスポーツ少年団グループで焼肉を喫食していたということにより、医師・家族から状況を確認しつつ感染症、食中毒双方の観点から保健所での調査を開始した(グループ1)。

調査の結果、焼肉店で喫食したグループ1は大人23名、子供23名であることがわかった。そのうち7名の児童が医療機関を受診し、前記の11歳男児を含めた6名がO157(VT2)陽性と報告された。これをうけて、焼肉店で喫食したグループ1全員の検便とO157陽性児童の接触者(家族)検便を実施した。

このグループ1とは別に、18日に同じA焼肉店で家族5名(大人2名、子供3名)が喫食し、そのうち子供1名が21日に下痢・腹痛を発症したため市内の医療機関を受診した。この10歳女児からもO157(VT2)が検出された(グループ2)。さらに、同日このA焼肉店において家族4名(大人4名)で喫食した72歳男性からもO157(VT2)が検出された(グループ3)。今回の事例の患者発生状況を一覧に示す(図1)。

細菌検査はグループ1の66検体、グループ2の喫食者4検体、グループ3の喫食者1検体および焼肉店従業員7検体の計78件の検便、ふきとり29件、食材の肉2件(同ロットがなかったため同じ収納庫の肉)と焼肉のたれ1件について実施した。検便の分離培地にはCT加ソルビトールマッコンキー培地を使用した。食品についてはノボビオシン加mEC培地で増菌培養したのち、免疫磁気ビーズ法および直接塗抹でCT加ソルビトールマッコンキー培地・クロモアガーO157培地・BCM O157培地を使用した。

検査により、グループ1で新たに3歳の幼児からO157(VT2)が検出され、陽性者は合計11名となった。便から検出された11株について、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による遺伝子解析を実施した。その結果(図2)は、1株で他の株とバンド1本の相違があるものの、ほぼ同一パターンを示し、同じ感染源であることを示唆している。

食品検体、ふきとり検体、従業員検便からO157は検出されなかったため原因の特定には至らなかったが、上記PFGE結果と疫学調査等の状況から、A焼肉店で提供された何らかの食品が原因であったと考えられた。

最後にPFGEによる解析に協力してくださいました埼玉県衛生研究所臨床微生物担当の皆様に深謝いたします。

さいたま市保健所検査課・食品細菌臨床検査担当
菊地孝司1) 小田切正昭1) 秋葉佐奈江1) 小堀すみえ1) 佐々木久子2) 細田茂雄1) 高野真理子1)
さいたま市保健所 地域保健課 環境衛生課
 現1)さいたま市健康科学研究センター
  2)さいたま市食肉衛生検査所

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