病原体等に関する規制について

(Vol.28 p 189-190:2007年7月号)

1.病原体等の規制の概要
一種から三種病原体等の所持については、許可、届出等により、どの施設がどのような種類の病原体等を所持しているか、国が一元的にその情報を把握することとなる。これら厚生労働省が把握した情報は、警察庁や海上保安庁、消防庁と共有され、例えば、盗取等の事故や災害等の緊急時等に、直ちに感染症の発生・まん延防止措置が取られることとなる。

また、病原体等を所持する施設に施設基準等を適用することにより、当該施設内での病原体等の安全管理を担保するとともに、施設外(事業所外)へ病原体等を運ぶ場合にも、公安委員会(管轄の都道府県警)への運搬の届出により、運搬時の安全管理も担保されることとなる。これにより、施設での保管から運搬にかけての一連で、病原体等の安全管理が図られることとなる。

さらに、これらの規制に対し、例えば、二種病原体等の無許可所持には3年以下の懲役または200万円以下の罰金、三種病原体等の無届け所持には300万円以下の罰金など、生物テロの未然防止という観点からの厳重な罰則規定が設けられている。

2.規制対象の病原体等
本規制の対象となる病原体等は感染症を引き起こすものに限定され、属・種で規定されている(本号3ページ参照)。検査等により、病原体等(当該ウイルス株、菌株等)が分離・同定された場合には、その時点以降は「所持」に該当し、規制の対象となる。

なお、そのものが直接生物テロに使用される可能性が低い臨床検体や、そもそもの患者や自然感染した動物などは規制対象として想定していない。もちろん、患者や自然感染動物からヒトへの感染のまん延等が懸念される場合には、従来どおりの感染症法等の規定により、対人および対物等の措置が取られることとなる。

また、規制対象となる病原体等のうち、例えば生ワクチン株や弱毒株など、ヒトの健康に影響を及ぼすおそれがほとんどない菌株・ウイルス株等は、厚生労働大臣が指定した上で、適用除外とする枠組みを設けている。このたびは、人用・動物用医薬品に用いられている生ワクチン株、A型ボツリヌス毒素製剤(医薬品)、炭疽菌Davis 株等の研究等に用いられている弱毒株等が大臣指定され、告示されている。今後、この大臣指定については、必要に応じて、文献・資料等を提出いただき、ヒトの健康にほとんど問題がないかどうか等を判断した上で、適宜、追加等していく予定としている。

3.分類ごとの規制、義務等の概要(表1
一種から四種病原体所持者には、種々の義務が課せられていることから、各所持者においては、課せられた義務を十分承知し、適切に対応していただきたいと考えている。特に、検出・同定の機会が多いと思われる四種病原体等については、届出等の義務はないものの、一種から四種病原体所持者には、施設基準や保管、使用、滅菌等の基準の遵守が求められている。また、盗取、行方不明等の事故の際の警察官等への届出、火災などの災害時の応急措置等も義務付けられていることに留意いただきたい。四種病原体等所持施設であっても、適宜、病原体等の管理規定を作るなどの自主的な管理が望まれる。

4.病原体等の運搬(図1
一種から三種までの病原体等を施設外に運搬する場合には、県警本部(生活環境課)で運搬証明書の交付を受けなければならず、実際には、この運搬証明書を携行して運搬を行うこととなる(航路や海路は、それぞれ航空法、船舶安全法に基づく輸送が定められているため規制対象からは除かれているが、一連の運搬経路として記載、届出が必要である)。

また、病原体等を運搬する際の容器包装等の基準(運搬の基準)も告示しているが、いわゆるICAO(国際航空規約)のカテゴリーAの厳しい規格に適合した容器に密封し、三重包装で運搬することを必須としている。特に、海外の研究者等から規制対象となっている病原体等を日本に輸送して貰うような場合には、すべてカテゴリーAの容器に入れて送って貰うよう伝える必要があるのでご注意いただきたい。

さらに、陸送時の安全運搬のため、警察庁とも協議の上、特定病原体等の安全運搬マニュアルを定めたので、これを適切に活用いただき、適切かつ安全な運搬を行っていただきたい。

5.実験室、製造施設、検査室と施設基準等との関係(図2
様々な病原体等の使用の態様がある中で、病原体等の取り扱い施設の基準を一律に設定することは難しく、また、国会の審議での指摘のとおり、本規制によって感染症対策が後退するようなことはあってはならず、また、生物テロの未然防止という観点からの病原体等の管理制度の厳格な運用も必要であったことから、これらバランスも考慮し対応してきたところである。

このため、省令等の策定においては、医療機関、検査機関、研究機関等の実態に留意し、特定病原体等そのものを用いての実験や研究を行う施設「実験室」、病原体等は使用するものの、医薬品製造のために、薬事法に予め規定された製造基準どおりの使い方等をする「製造施設」、主に病院、診療所、病原体等の検査を行う機関等で、臨床検体を取り扱い、業務に伴って病原体等を同定する「検査室」の、大きく3つのカテゴリーに分類して施設基準を設定した。また、施設の改修を伴うような項目については、必要な経過措置を設け、遵守可能な基準とすべく対応した。

一方、これら施設基準等については、生物テロを未然に防止する観点から必要な規制を設けたこともあり、施行時の留意事項として発出した課長通知[2007(平成19)年6月1日、健感発第 0601002号]において、病原体等の安全取り扱いの観点からの望ましい対応については、WHOのバイオセーフティ指針等を参考に取り組むことを推奨したところである。このような趣旨をご理解いただき、厚生労働省としても、この規制のみならず、積極的にわが国における病原微生物等の安全取り扱いのレベルアップに努めてまいりたいと考えている。

6.終わりに
病原体規制に関しては、5月2日の省令施行、さらに、告示案のパブリックコメント、これらパブリックコメント中の事業者向けの説明会(全国7カ所9回)開催などに加え、マニュアルの作成等、準備が遅いものもあったが、施行までに制度の周知徹底、法令遵守のための準備等を行ってきた。思えば、法案審議前の早い段階から、学会や関係団体、関係省庁等の関係者を含め、幅広い周知、意見聴取等に努めてきた。

既にこの6月1日から施行されているが、関係者の皆様方にも種々ご理解・ご協力をお願いするとともに、引き続き、関係者から十分聴取等をしながら、また、必要な場合には、適宜修正を加えながら、適切・円滑な運用を目指していきたいと考えている。

なお、厚生労働省の以下のホームページで適宜情報を更新しているのでご確認いただければと思う。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou17/03.html

厚生労働省健康局結核感染症課 課長補佐 三木 朗

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