母子感染した新生児麻疹の1例

(Vol.28 p 195-196:2007年7月号)

今回我々は、母親が出産直後に麻疹を発症し、児にも感染した症例を経験したので報告する。

母親は30代前半で里帰り出産のため2007年4月上旬から来仙していた。4月中旬に当院産科で帝王切開術にて女児を出産し、4月下旬に母子ともに退院した。児に仮死、黄疸などを認めなかった。

退院して2〜3日後に母親が発熱したため、近医から塩酸レナンピシリンを処方され内服したが、咽頭痛と下痢を認め、数日後から発疹が出現したため当科受診し、麻疹の診断で当科入院した。母親は麻疹罹患歴がなく、ワクチン接種歴も不明であった。入院時の麻疹抗体価(Index)はIgG 8.9(正常2.0未満)、IgM 9.52(正常0.80未満)と、ともに陽性であった。ここで出産児にも感染の危険性があったため、入院日の夕方に予防的に児に対してγ-グロブリンを1ml筋注した。

母親の皮疹は典型的な麻疹のそれで、顔面から始まり下肢へ移行し、色素沈着を残し消退した。また、第10病日には解熱し、大きな合併症も認めず第13病日に退院した。

しかし、母親の第11病日より女児に咳が出現し、翌日夜より発疹が出現、哺乳力低下と咳増強のため救急外来受診した。37℃台の発熱と全身の癒合する小紅斑およびKoplik斑をみとめたため、麻疹の診断で母親の退院日に入院となった。入院時よりスルバクタムナトリウム・アンピシリンナトリウムと硫酸アミカシンおよびウリナスタチンの点滴静注に気管支拡張剤の吸入や去痰剤の内服を併用した。一時、哺乳力の低下と体温上昇を認めたが改善し、皮疹も色素沈着を残し消退した。その後、順調に経過し6日後に退院した。女児の麻疹抗体価(Index)は入院時にIgG 2.0未満で陰性、IgM 11.1で陽性であったが、退院時にはIgG 40.5、IgM 9.68と、ともに陽性であった。

現在は、母児ともに日常生活に戻っている。

本例の児はγ-グロブリンの事前投与により重症化を防ぐことができたと考えられる。しかし、抗体産生能の弱い年齢であるため、今回の感染で免疫成立とは考えず、1歳以降の麻疹ワクチン接種が望ましい。また、母児ともに特に大きな合併症も生じずに急性期を脱しているが、本例を通してあらためてワクチンの重要性を再認識させられた。

本邦では、2007年4月頃より関東地方を中心に麻疹の集団発生を認めており、ゴールデンウイークを期に全国的にさらに勢いを増している。今回の集団発生では麻疹ワクチンを接種していない人や、1回接種のみでブースター効果を受けていない10代後半〜20代後半が中心となっている。また、近年の交通網の発達により、これらの世代の人々がゴールデンウイークに全国に移動してしまったことも集団発生が拡大してしまったことの一因ともいえる。

諸外国、こと先進国ではワクチンの徹底により麻疹はもはや過去のものとなりつつある中、いまだに流行を繰り返している本邦は、諸外国から「麻疹輸出国」と注目されている。

近年、本邦は先進国として開発途上国に麻疹を含む様々なワクチンを支援したり、公衆衛生の理念を高めることに貢献している。今回のような症例を教訓に、自国内でのワクチン接種の啓発活動にも積極的に取り組む時期に来ているのではないだろうか。

仙台赤十字病院皮膚科 石橋昌也 田畑伸子
仙台赤十字病院小児科 田中佳子

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