焼肉店が原因施設と疑われた腸管出血性大腸菌O157食中毒事例−群馬県

(Vol.28 p 196-197:2007年7月号)

2007年5月、群馬県内の飲食店を原因施設とした腸管出血性大腸菌(EHEC)O157による食中毒事件が発生したので、その概要を報告する。

千葉県に在住する1グループ6名のうち、2名からEHEC O157が分離され、所管する保健所に患者発生届出がなされた。このグループの喫食状況調査から、4月29日に群馬県内のK焼肉店を利用していたことが判明した(5月11日:群馬県へ感染症原因調査依頼)。さらに、5月10日〜15日にかけ、群馬県在住の4グループの4名について、EHEC患者発生届が各々を所轄する保健所へ提出された。3名は有症者、1名は無症状であったが、健康診断の検便検査によりEHECが分離された。

届出に伴う状況調査では、4グループは5月2日〜6日の間にK焼肉店を利用していた。千葉県の1グループおよび群馬県の4グループの共通利用施設は同店のみであることから、K焼肉店を感染原因施設と推定した。当該施設では4月29日〜5月6日の間に568名の利用者があった。今回の事件で、発症または菌分離が確認されたのは、5グループ総数31名(群馬県内4グループ25名、千葉県1グループ6名)のうち、計10名(発症者5名、無症状病原体保有者5名)であった。分離株はすべてO157:H7 Vero毒素(VT)1&2産生株であった。発症者5名の主な臨床症状は、腹痛、下痢、嘔吐、発熱であり、そのうち2名には血便も見られた(表1)。原因食品調査では、この間の提供食(保存品)は無く、参考品として同施設内で保有していた食材(ユッケ用生牛肉)1検体、ふきとり5検体、従事者便5検体について食中毒原因菌検索を実施したが、本菌を含む食中毒原因菌は検出されなかった。当該施設を所管する保健所では、複数のグループからO157 VT1&2産生株が分離されたこと、利用したグループ間では事前に感染を疑う接触がないこと、共通の喫食場所はK焼肉店のみであること等の疫学調査から、同店が提供した食事を原因とする集団食中毒事件と断定した。

本事件で5グループから分離されたO157の6株について、薬剤感受性試験およびパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による遺伝子解析を実施した。供試した6株は薬剤感受性試験の結果がすべて同じで、12薬剤(ABPC、PIP、CMZ、SM、KM、GM、TC、CP、FOM、NA、OFLXおよびST合剤)に感受性を示した。また、制限酵素Xba Iを用いたPFGE解析でも供試6株はすべてDNA切断パターンが一致した(図1)。以上のことから、これら6株は同一起源のO157である可能性が示唆された。

EHEC O157による集団食中毒や感染事例は、牛肉やその加工品であるユッケ(生食)などが感染原因として疑われる場合が多いが、生食用の場合には生食用食肉等安全性確保について(平成10年9月11日付け 生衛発第1358号 厚生省生活衛生局長通知)に基づいて「生食用」と表示のあるものの提供が求められる。本来ユッケには生食用の牛のモモ肉が使われるが、本事件では生食用以外の牛のモモ肉を代用し、提供していたことも判明した。こうした不適切な取り扱いから複数のグループに感染が拡大した可能性も否定できない。

EHEC O157は病原性が高く、少量の菌の摂取により、汚染された食品が感染原因となることや、人→人感染なども起こり得る。したがって、本菌の感染予防には、生食や加熱不十分な肉類の摂食のみならず、調理器具などの衛生管理も徹底する必要がある。今後は飲食店などに対し、生食用食肉の衛生基準等について理解を求めるとともに指導強化を図り、消費者を対象に生肉を食することの微生物レベルの危険性について啓発することが、食肉が媒介する集団食中毒や感染事例の予防対策に極めて重要であると考えられた。

最後に、本事件に関連する菌株を分与いただいた千葉県衛生研究所の担当者の方々に深謝いたします。

群馬県衛生環境研究所
黒澤 肇 石岡大成 白石直美 藤田雅弘 森田幸雄 小畑 敏 加藤政彦 小澤邦壽
渋川保健福祉事務所
清水みどり 高橋ふさ子 岡田直子 川合修三 水上憲一
群馬県食品監視課
間渕 徹 鷲尾和美 町田 護 小倉洋裕 長井 章
国立感染症研究所感染症情報センター第六室 木村博一

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