新生児における麻疹感染事例−川崎市

(Vol.28 p 196-196:2007年7月号)

川崎市において新生児が麻疹に感染した事例がみられたので、その経過について報告する。

患児は男児で、2007年5月20日頃から、感冒症状を認めていたが無治療で軽快した。5月23日(生後20日齢)夜に発熱(38.2℃)、体幹の小発赤疹を認め、病院を受診した。母親(27歳)が麻疹疑いで市内の別の医療機関で経過観察されていることもあり、麻疹を疑うとともに、新生児の重症感染症を鑑別する必要があるため、血液・尿・便・髄液検査を行った。血液生化学所見では、赤血球425×10/μl、白血球10,000/μl、CRP 0.4mg/dl、LDH 587IU/l、GOT 128IU/l、GPT 57IU/l、γGTP 173IU/lで、軽度肝機能障害が認められた。髄液所見は、細胞数186/3mm、蛋白54mg/dl、糖46mg/dl(血清は96mg/dl)であり、ウイルス性の髄膜炎/脳炎も疑われた。入院時に提出していた血清抗体検査(ELISA)において麻疹IgGは陰性であったが、IgMは8.11と上昇がみられ、麻疹と診断された。

当研究所には24日に採取された咽頭ぬぐい液、髄液、血清、糞便が搬入された。NP遺伝子のプライマーを使用したRT-PCRおよびダイレクトシークエンスにより塩基配列を決定し、国立遺伝学研究所のDNAデータベースであるDDBJのBLAST検索およびNJ法による分子系統樹解析を行い、遺伝子型を特定した。その結果、すべての検体でRT-PCR陽性となり、分子系統解析の結果、現在流行している遺伝子型D5に分類され、各検体間の塩基配列のホモロジーは100%であった。

男児は25日には解熱し、紅斑についても色素沈着を伴ったものの消退傾向を示し、31日にはほぼ消失した。8日間の入院を要したが、現在のところ後遺症は認めていない。なお、この男児に先天異常はなかった。

感染経路について、5月12日に母親が発熱と発疹で市内の医療機関を受診しており、麻疹疑いと診断されている(その後、抗体検査で確定した)。このことから、母親からの感染の可能性が非常に高いと思われる。

2007年4月頃から関東地方を中心に、麻疹の流行が続いている。川崎市においても0歳〜40代と幅広い年齢層で患者が報告されている。今回の事例では、麻疹抗体の無いあるいは低い母親が麻疹に感染し、母親からの移行抗体の無い新生児が感染している。幸いにも重症化せず後遺症もなく現在のところ経過している。しかし、乳幼児、特に先天性疾患のある場合は重症化することがある。今後、このような母親を介した新生児への感染も発生する可能性があるので、注意が必要と考える。

川崎市衛生研究所 平位芳江 清水英明 奥山恵子 岩瀬耕一 小川正之
川崎市立川崎病院 楢林 敦 長 秀男

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