シンガポールでは、2004年〜2005年にかけて、デングウイルス1型による大きな流行があった。2006年に入り1型ウイルスによる流行は終息しつつあったが、2007年には2型ウイルスによる流行が始まり、1月からの報告数は6月中旬で2,868例となり、第24週(6月10〜16日)の報告数は401例、第27週(7月1〜7日)の報告数は432例にのぼり、5月以降2005年の患者報告数を上回る患者が報告されている。デング熱の大流行は、従来3〜4年周期で発生することが多かったが、今回シンガポールで2年を待たずに大きな流行が発生したことは、留意すべき出来事である。
また、隣国のインドネシアにおいても2007年はデング熱の大きな流行が発生している。2006年の報告患者数は114,656例で、そのうち死亡例は1,196例であったが、2007年は4月16日までにすでに57,706例(686例死亡)の報告があり、4月9日には、ジャカルタ特別州で非常事態が宣言された。このようなインドネシアの流行状況を受けて、2007年7月18日現在、国立感染症研究所ウイルス第一部で検査したデング熱症例推定感染国は、インドネシアが半数を占めている(表)。
また、ベトナムでも、2007年6月に入り、デング熱患者の発生は国内28の都市および省に及び、8,217例の新たな患者発生と12例の死亡が報告されている。今年初め〜6月16日までの集計では、19,144例の患者と21例の死亡が確認され、このデータは昨年の同時期に比べて患者数で25%、死亡者で40%の増加である。メコンデルタ地域のTien Giang省ではデング熱患者数は死亡3例を含む2,700例となり、入院する小児の90%はデング熱患者という状況である。
このほか、2007年に入ってからのデング熱患者数は、タイ、カンボジア、ミャンマーなどでも前年を上回っている。
一方、わが国に最も近いデング熱流行国である台湾の状況は、2002年に15,221例の報告例があり、このうち5,388例が実験室診断で確定された大流行が、南部の高雄市を中心に発生した。この流行でデング出血熱は242例であった。この大流行の後、大規模で徹底的な媒介蚊の駆除対策が実施され、2003年にはデング熱の報告数は1,583例(出血熱は2例)に減少した。しかし、デングウイルスの活動を完全に押さえ込むことは困難で、2004年の報告数は1,421例、2005年の報告数は1,083例、2006年の報告数は2,465例であった。台湾におけるデング熱の流行は、本年もすでに始まっており、出血熱患者も発生している。2007年7月17日現在患者報告数は568例(うち58例は輸入例)である(http://www.cdc.gov.tw)。台湾でのデング熱流行は、その年の気候条件にも左右されるが、6月〜12月初旬である。
国立感染症研究所ウイルス第一部
高崎智彦 小滝 徹 原田文植 田島 茂 倉根一郎