主な空港検疫所におけるデング熱検査の現状

(Vol.28 p 215-217:2007年8月号)

1.はじめに
厚生労働省の施設等機関である検疫所においては、国内に常在しない感染症の国内への侵入防止を目的とした検疫法に基づく検疫・衛生業務と感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、感染症法)に基づく動物の輸入届出審査業務、また、海外から輸入される食品等の安全性の確保を目的とした食品衛生法に基づく輸入食品監視業務を担っている。

本稿ではわが国の主要空港(成田空港、関西空港、中部空港、福岡空港)におけるヒトおよび媒介蚊からのデング熱検査による国内侵入監視の現状を紹介する。

2.検疫・衛生業務
(1)検疫業務
検疫法で定める「検疫感染症」は、感染症法に規定する一類感染症のエボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱および政令で定められたインフルエンザ(H5N1)、デング熱、マラリアである。

海外からのこれらの感染症の国内侵入を防止するため、わが国に来航する航空機、船舶について、患者の有無を確認、診察、検査を行い、検疫感染症患者を発見した場合には、隔離・停留(一類感染症の場合)、消毒等の措置を行う。

(2)衛生業務
上記の「検疫感染症」に加え、媒介動物対策を実施する感染症「検疫感染症に準ずる感染症」としてウエストナイル熱、腎症候性出血熱、日本脳炎、ハンタウイルス肺症候群が指定され、これら感染症の媒介動物(ねずみ、蚊など)の侵入や国内での定着を防止するため、航空機、船舶の調査、ならびに空港、海港の調査対象区域(政令により指定されている)の衛生状態を調査し、必要に応じて防疫措置を行う。

(3)その他
申請業務として、海外渡航者に対する予防接種や病原体の有無の検査、船舶の国際航行に必要な証明書の発給を行っている。

3.主な空港検疫所におけるデング熱診断
(1)ヒトのデング熱診断
デング熱の流行地域から潜伏期間の14日以内に日本に入国する者で、入国時に発熱等の症状を申告する者、サーモグラフィー等により発熱症状等が確認された者に対しては、医師の診察を行い、デング熱が疑われる場合には、採血を実施し、簡易診断キットやELISAにより血中特異抗体の有無を確認する。

また、発熱初期の抗体未上昇期における患者の検出のために、さらにデングウイルス遺伝子検出(RT-PCR法)検査を実施することとしている。RT-PCR検査陽性検体については、必要に応じてウイルス分離等の確認検査を実施することとなる。患者に関する情報は、検疫法に基づき、居住地を管轄する都道府県知事等に通知されるとともに、感染症法に基づき、最寄りの保健所に届け出される。

2004年〜2007年(2007年は1〜5月)までの成田空港、関西空港、中部空港、福岡空港の各検疫所で実施した抗体検査およびウイルス検査の結果を表1に示した。抗体検査では、2004年に5件、2005年に8件、2006年に6件のIgM 抗体が検出され、ウイルス検査においては、2004年に2件、2005年に15件、2006年に5件、2007年に1件検出された。型別では、1型が5件、2型が2件、3型が12件、4型が4件であった。

また、推定感染国別に見ると(図1)、インド15件、インドネシア8件、フィリピン6件、タイ4件、その他では、ガーナ、ネパール、ベトナム、マリ、スーダン、ドミニカ、バングラディッシュ、カンボジアがそれぞれ1件であった。

(2)媒介蚊のデングウイルス保有検査
空港区域で採集した蚊については、種の同定を実施した後、横浜検疫所と神戸検疫所の輸入食品・検疫検査センターに送付し、デング熱、黄熱、日本脳炎、ウエストナイル熱を対象としたフラビウイルス遺伝子保有の有無をRT-PCRにより確認する。

表2に空港区域で採集された蚊族のフラビウイルス遺伝子検査実績を示した。2004年1月〜2007年(1〜5月)までに検査した成田空港から送付された2,655匹、関西空港709匹、中部空港312匹、福岡空港1,766匹のトータル5,442匹(そのうちの18匹は航空機内にて採集)については、すべてフラビウイルス陰性であった。

4.おわりに
検疫所における衛生調査の結果、現状では日本国内にはデングウイルスを保有する蚊族は発見されておらず、侵入定着の事実はないものと思慮されるが、東北地域以南において幅広く媒介蚊であるヒトスジシマカ(Aedes albopictus )が生息しており、温暖化の影響でその生息域は年々拡大傾向にある。また、東南アジアを中心に、依然デング熱が流行しており、航空機によりウイルス保有蚊が国内に侵入する可能性もある。ひとたび侵入すれば、過去にヒトスジシマカによるデング熱の流行の歴史もあり、国内での流行も懸念されることから、今後も流行地域からの入国者の診察および港湾地域の衛生調査等による媒介蚊侵入監視対策を実施していくとともに、旅行者の出国時の注意喚起を図っていきたい。

なお、本稿において、検疫所業務について、紹介の場を頂き、感謝いたします。今後とも皆様のご理解を頂くとともに国内関係機関との連携が強化できることを望み、稿を終えたい。

厚生労働省医薬食品局食品安全部企画情報課検疫所業務管理室 原田 誠

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