国立国際医療センターにおける輸入デング熱症例の臨床的検討

(Vol.28 p 217-218:2007年8月号)

2005年1月〜2006年12月までの2年間に国立国際医療センター国際疾病センター渡航者健康管理室を受診した日本人海外渡航者で、病原体診断または血清学的にデング熱・デング出血熱と診断された16例を対象として後方視的に臨床的特徴を検討した。病原体診断および血清学的診断は国立感染症研究所ウイルス第一部において、病原体診断は末梢血よりリアルタイムRT- PCR法を用いたウイルス遺伝子の検出によって行い、血清学的診断はIgM capture ELISA法(Focus社、米国)、IgG ELISA法(PanBio社、オーストラリア)による抗体の検出により行った。抗体検査はキットのプロトコールに従って実施した。

16例のうち男性は11名、女性は5名で、平均年齢は34.5±15.1歳であった。渡航先はすべてアジア地域で、7例がフィリピンにおける感染であった。渡航目的と滞在期間では1カ月以内の短期滞在者は9名(休暇3名、仕事3名、知人訪問3名)、1カ月以上の長期滞在者は7名(休暇3名、仕事2名、在住2名)であり、このうち現地で罹患し治癒後の検査目的で受診した例が2例であった。主な臨床症状は発熱(100%、平均有熱期間:5.4日)、頭痛(63%)、関節痛(38%)で、4例は下痢などの消化器症状も伴っており、半数の症例が発疹の出現を契機に当院を受診していた。また、症状出現から当院で診断されるまでの平均日数は4.9日であった(表1)。

血液検査では白血球減少(3,000/μl以下:79%、平均値:2,327)、血小板減少(10万/μl以下:86%、平均値:6.9万)、CRP正常範囲内(1.0mg/dl以下:93%、平均値:0.44)などが特徴的所見であり、GOT、LDH値の上昇も多くの症例で認められた(表2)。

来院時有症状者14例のなかで入院を要した例は6例(症例2、5、9、12、13、14)で、症例2はデング熱の診断基準に加え、持続する発熱、血便および口腔粘膜出血、血小板の著減を伴っていたため、デング出血熱の診断基準を満たしていた。また症例12と13は血清中からはウイルス遺伝子が検出されなかったが、尿中より検出されウイルス型別が確定した。

日本旅行業協会の統計によれば、2005年の日本人海外渡航者数は1,740万人で、このうち約1,100万人がアジア地域へ渡航している。デング熱が都市部や観光地でも感染する可能性があることを考えれば、熱帯感染症の鑑別として重要なマラリアや腸チフス以上に遭遇する確率が高い輸入熱帯感染症であると考えられる。したがって正確な診断を行うにあたっては、教科書的な概念だけではなく、多くの臨床症例の解析が必要であり、効率性の高い検査法の開発も重要である。

国立国際医療センター国際疾病センター(現:在ベトナム日本国大使館) 水野泰孝
国立感染症研究所ウイルス第一部 高崎智彦 倉根一郎

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