高校における麻疹患者発生時の対応事例−福岡県

(Vol.28 p 223-225:2007年8月号)

はじめに
2007年4月頃より、麻疹の流行が関東地方から全国各地に波及し、休校措置をとる学校が続出した。しかし、休校のための明確な判断基準がないため、学校関係者、学生、保護者等には戸惑いが見られた。

今回、積極的疫学調査で、ある高校の麻疹患者発生を探知し、高校と保健所とが連携して、健康教育、質問票による生徒の免疫状況把握、学内サーベイランスによる経過観察で、中間考査、文化祭等の重要行事を中止せずにすんだ事例を経験したので報告する。

1.福岡県内発生状況
福岡県では、第20週(5月14〜20日)に今年初めて7件の麻疹が報告された。22日、県健康対策課は、全数把握のため、全医療機関に麻疹の報告を依頼した。24日、県教育庁スポーツ健康課は、県立学校および市町村教育委員会に、出席停止と学級閉鎖の保健所への報告(学校保健法第20条)を徹底し、保健所と適切な予防対策を協議するよう通知した。全数報告にかえて以後の5週間で、糸島管内:定点4、定点外11、全県:定点37、定点外143が報告された(図1)。

2.事例の概要
1)初発患者の状況
5月18日(金)、管内A小児科医院(定点)から、B高校1年生S1が麻疹に罹患したとの情報を得た。週明けの21日(月)、主治医に了解を取ってもらい、保護者に連絡した。患者はMMRの副作用を心配し、ワクチン未接種だった。15日夕方発熱(39.6℃)、16日受診、上気道炎の診断でいったん解熱。17日37.5℃あったが登校。18日、39℃台の発熱で再受診。発疹、コプリック斑を認め麻疹と診断された。

2)B高校の対応
a)初期対応:保健所および学校関係者で対応を協議した。翌日から3日間の中間考査を控えていたが、S1以外に麻疹の報告はなく、発症後登校した17日に感染したとしても、21(月)〜25日(金)は潜伏期間中で二次感染者の発症は週明けからと思われたため、(1) 欠席状況および健康チェックによる学内サーベイランス開始、(2) 中間考査終了後に、啓発資料と質問票(Q1予防接種:有、無、不明、Q2罹患:有、無、不明、Q3麻疹各症状:有、無、Q4:母子手帳:有、無)を配布し、発症時の早期受診勧奨と情報収集を行うこととした。

質問票の集計結果を表1に示す。予防接種有か罹患有以外はすべて感受性者としても、1、2年生では10%前後、不明としたものが多い3年生で19%だった。

校舎は3階建ての管理棟と教室棟(1年生:1階、2年生:2階、3年生:3階)を通路棟二つでつなぐ井桁構造だった。S1の1年4組は、通路棟につながる二つの階段から離れた中央寄りにあった。また、S1は登校した17日には元気なく、ほとんど机に座っていた。接触状況や1年生の感受性者数から、多数の二次感染は想定しにくいと考えられた。

欠席者数に変化はなかったが、1年4組の生徒S2(予防接種:不明、罹患:無)は、28日(月)全身倦怠感があったが登校し、夕方より熱発(39℃)、翌29日、C内科医院(定点外)受診、顔面頚部に発疹を認めたが、コプリック斑を認めず、麻疹ではないと言われた。発熱続くため以後欠席していた。

6月2日(土)のB高校文化祭については、1日時点で、新たな患者報告はなく、S1が最後に登校した5月17日(木)を基点にすると、二次感染者の発病は起こらなかったと考えられたこと、9割の生徒が非感受性者であること、全生徒・保護者に有症状受診を勧奨していることなどから予定通り実施した。

b)その後の対応と終息宣言:S2はその後、D内科医院(定点外)受診、6月2日(土)全身の発疹とともにコプリック斑が確認され麻疹と診断、4日(月)保健所に報告があった。なお、S2の弟も、5日熱発、9日発疹出現、11日D内科医院受診時にコプリック斑を認め麻疹と診断された。

4日以後も、休校や学級閉鎖は行わず、経過観察とした。その後新たな患者発生もなく、B高校はS2が登校した5月28日から潜伏期間の2倍が経過した6月20日に終息宣言を行った。

3.今後の対策
患者が発生した学校や保育所等への指導に際し、入学・入園時に罹患歴は聞くが、予防接種歴は聞かない施設が多いことが分かった。このため、患者発生に備え、全学校・保育所等にB高校で使用した啓発資料と質問票を配布した。また、保健所保健事業部会、学校結核対策委員会、学校保健会等を通じ、来年度から入学・入園時に予防接種歴も確認するよう調整している。

管内の昨年度MR接種率は、1期がM市:98.3%、S町:87.9%、N町:95.0%、2期がM市:74.0%、S町:82.3%、N町:77.1%であった。保健事業部会等を通じ、2期およびS町1期の予防接種率改善を図っていく予定である。

4.終わりに
学校教育や保育所等の育児支援には大きな社会的意義があり、可能な限り休校・休園は避けるべきである。今回、B高校が積極的に対応し、重要な学校行事を無事に実施できたことは評価に値する。

今後は、流行阻止のため、1期および2期の予防接種率向上が急務である。また、入学・入園時等の調査で予防接種歴を確認しておけば、患者発生時に迅速対応が可能である。調査時に、併せて未接種者に接種を勧奨すれば発生予防につながる。また、定点報告の麻疹は全数報告とし、発生時には、保健所と学校・保育所等が連携して適切な対応をすべきである。

福岡県糸島保健福祉環境事務所(糸島保健所) 財津裕一 伊藤順子 中山雅彦

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る