2006年度麻疹血清疫学調査ならびにワクチン接種率調査−2006年度感染症流行予測調査より

(Vol.28 p 241-244:2007年9月号)

はじめに
感染症流行予測調査は、1962年に伝染病流行予測調査事業(2000年からは感染症流行予測調査事業)として、集団免疫の現状把握および病原体の検索等の調査を行い、各種疫学資料と合わせて検討し、予防接種事業の効果的な運用をはかり、さらに長期的視野に立ち総合的に疾病の流行を予測することを目的に開始された。実施の主体は厚生労働省健康局結核感染症課であり、都道府県、地方衛生研究所、国立感染症研究所が連携し、血清疫学調査(感受性調査)、病原体検索(感染源調査)を全国規模で行っている。

麻疹の感受性調査は1978年に開始され、以後1979、1980、1982、1984、1989〜1994(毎年)、1996、1997、2000〜2006(毎年)年度に調査が実施され、2007年度は現在、調査中である。

抗体測定法は1996年に、赤血球凝集抑制(hemagglutination inhibition: HI)法からゼラチン粒子凝集(particle agglutination: PA)法に変更になり、2006年度はPA法になってから9回目の調査である。

本報告は、結果解析可能な最新年度である2006年度調査(北海道、宮城県、山形県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、新潟県、福井県、長野県、愛知県、京都府、大阪府、山口県、香川県、高知県、福岡県、佐賀県、宮崎県、沖縄県の21都道府県で調査)について、2007年8月時点での集計より、速報として報告する。

なお、詳細は2007年12月発行予定の平成18年度感染症流行予測調査報告書(厚生労働省健康局結核感染症課、国立感染症研究所感染症情報センター)を参照されたい。

年齢別麻疹ワクチン、麻疹風疹混合(MR)ワクチン、麻疹おたふくかぜ風疹混合(MMR)ワクチン接種率
麻疹を調査対象疾病とする21都道府県の麻疹ワクチン(MRワクチン、MMRワクチンを含む)接種率は、接種歴不明3,177名を除いた2,815名でみると87.7%であり、2005年の86.1%、2004年の79.4%、2003年の79.3%に比してそれぞれ 1.6ポイント、8.3ポイント、8.4ポイント上昇していた。年齢別にみると、0歳0%、1歳83.6%、2〜3歳97.3%となり、4〜6歳98.2%が最大であった。2005年の1歳75.7%、2〜3歳97.1%、4〜6歳96.1%と比較すると、特に、1歳児の接種率が上昇していた。2006年4月から定期接種としてMRワクチンが接種可能となったが、調査対象となった1歳児246名中、接種歴不明の81名を除いた165名中で、MRワクチンを接種していたのは43名であった。

麻疹が調査対象に入っている21都道府県以外でも、麻疹ワクチン、MRワクチンおよびMMRワクチン接種歴が調査されていた(計6,926名、24都道府県)。その結果、1歳児の麻疹を含むワクチンの接種率は81.7%、2歳児では96.9%であった。MMRワクチン接種者は15〜19歳群で多く、16歳でのみ89.2%の接種率であったが、それ以外の年齢群ではいずれも接種率は90%以上であり、本調査からは、MMRワクチン接種世代の接種率が、他の年齢群と比べて極端に減少している傾向は認められなかった(図1)。

年齢別麻疹抗体保有率図2
2006年度は21都道府県、合計 5,992名で麻疹PA抗体が測定された。1:16以上の抗体保有率は、0〜5カ月齢が75.5%、6〜11カ月齢が17.0%、1歳が68.3%で、0〜1歳の抗体保有率は低かった。2歳になると、ワクチン接種者の増加により、抗体保有率は93.6%と上昇していたが、小・中・高校生世代には、5.3%の抗体陰性者が存在し、年齢によっては10%程度と抗体陰性率の高い年代が認められた。20歳以上になると、抗体陰性率は低くなるものの、100%の人が抗体陽性であったのは、60〜84歳群の275名のみであり、20代に1.9%(1,078名中20名)、30代に1.0%(986名中10名)、40代に0.7%(561名中4名)、50代に1.4%(438名中6名)、85歳以上に9.0%(11名中1名)の抗体陰性者が存在した。

前回大規模な全国流行があった2001年度調査では、1歳の抗体保有率が43.9%であったことから、「1歳になったらすぐ」の麻疹ワクチン接種勧奨の強化により、1歳児の抗体保有率は大幅に上昇していた。一方、ワクチン世代の母親から生まれた小児の割合が増加してくるため、乳児の抗体保有状況は、移行抗体の消失時期を考える上で重要であるが、生後6カ月までに4人に1人は抗体が陰性になっていた。次に、1:1,024以上の抗体保有率を年齢別に見ると、小、中、高校生世代では30%程度であり、他の年齢群に比して低かった。

1:16以上の抗体保有者の幾何平均抗体価は全体で29.1(566.3)であった。ワクチン2回接種者、1回接種者、非接種者にわけると、それぞれ29.5(721.1)、29.1(557.6)、29.3(619.7)であり、2回接種群が最も高かった。

次に、総務省統計局の報告による2006年10月1日現在の推計人口と年齢別抗体陰性者率から年齢別麻疹感受性人口を推計し、図3に示した。PA法は感度が高いため、この方法で陰性の場合、麻疹に対する免疫を全く保有していないと考えられる。0歳児で約70万人、1歳児で約33万人、2007年の流行で、流行の中心となった10〜20代においては、10代で約65万人、20代で約28万人が麻疹感受性者であったことが推計された。全年齢群でみると、2006年度わが国における50歳未満の麻疹感受性者数は約270万人であったと推計された。

ワクチン接種歴別年齢別麻疹抗体保有率図4図5図6
ワクチン接種歴別年齢別に麻疹PA抗体保有状況を示した。図4にはワクチン1回接種者の麻疹PA抗体保有状況を示した。Primary vaccine failureと考えられる抗体陰性者が2.3%存在した。1:16、32、64の低い抗体価の者が全体で9.2%存在し、1歳児と10〜19歳群ではそれぞれ12.8%、14.3%とそれ以外の年代と比べて、高い傾向が認められた。

図5には、ワクチン2回接種者の麻疹PA抗体保有状況を示した。調査人数が少ないものの、図4に示したような抗体陰性者はいなかった。

図6には、ワクチン未接種者の麻疹PA抗体保有状況を示した。1〜9歳では70.2%、10代では28.0%が抗体陰性で、近年の麻疹の流行状況では、ワクチン未接種にかかわらず、この年齢まで麻疹に罹患せず発症を免れている者が存在することが推察された。一方、20歳以上になると、ワクチン未接種かつ抗体陰性者の割合は激減し、20歳以上でワクチン未接種であった210名中、抗体陰性は2名のみであった。60歳以上の26名中、抗体陰性者はいなかったが、3名は1:16あるいは1:64の低い抗体価であった。

まとめ
2006年度調査結果の特徴は、2001年の全国流行以降実施された「麻疹ワクチンを1歳のお誕生日プレゼントにしましょう」キャンペーンにより、1歳以上就学前世代の麻疹を含むワクチンの接種率が上昇し、この世代の抗体保有率が2001年度と比較して飛躍的に上昇したことである。

しかし、既に定期予防接種対象年齢を過ぎていた世代では、約10%のワクチン未接種者が存在するとともに、ワクチン1回接種後のprimary vaccine failureが2.3%存在し、ワクチン1回接種者の9.2%は発症予防に十分な抗体を保有していなかったと考えられる。特に、1歳児と10〜19歳群ではその割合が高かった。2006年春の茨城県南部、千葉県での地域流行、2007年の全国流行では、これらの世代が流行の中心になったと考えられた。

2007年の流行を受けて、国を挙げての麻疹対策が進行中である。予防接種に関する検討会(座長:国立成育医療センター加藤達夫総長)では、麻疹の全数把握制度の導入、今回の流行の中心であった2008年度小学校3年生から高校3年生の世代への2回目のワクチン接種の実施、定期予防接種の95%以上の接種率の達成とその維持、国および地方自治体に麻疹対策委員会の設置等が提案され、厚生労働省に提出されている。また、麻疹と風疹はともに対策を進めていくべき疾患であることから、使用するワクチンはMRワクチンを原則とし、風疹の全数把握制度の導入も提案された。2012年の国内麻疹eliminationにむけて、一層の麻疹対策が進むことが期待される。

本研究は、厚生労働省結核感染症課および都道府県、地方衛生研究所、保健所との共同による。

国立感染症研究所感染症情報センター
多屋馨子 佐藤 弘 北本理恵 岡部信彦
2006年度感染症流行予測調査事業麻疹感受性調査担当
北海道、宮城県、山形県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、
新潟県、福井県、長野県、愛知県、京都府、大阪府、山口県、香川県、
高知県、福岡県、佐賀県、宮崎県、沖縄県

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