東京都教育委員会における麻疹流行への対応

(Vol.28 p 249-250:2007年9月号)

2007年3月から東京都では学校での麻疹の流行がみられ、公立学校においては、2007年1月〜8月19日(第33週)までに、小学校214校、中学校135校、高等学校等(高等専門学校・特別支援学校高等部等を含む)155校から計1,177人の麻疹患者が発生した。東京都教育委員会が実施した公立学校麻疹サーベイランス、都立学校の臨時休業、都立学校における予防接種等の麻疹対策について報告する。

1.はじめに
東京都の公立小中高等学校は、都立高等学校・高等専門学校207校、都立中学校・中等教育学校4校、都立特別支援学校53校、区市町村立小学校1,323校、区市町村立中学校・中等教育学校634校、区立特別支援学校5校からなる。東京都教育委員会は、都立学校の設置管理者であるほか、東京都の区市町村教育委員会に対して、教育に関する事務の処理について必要な指導・助言・援助を行っている。なお、私立学校、国立学校および大学については所管していない。

2.麻疹発生状況および対応
全国的に麻疹の流行が見られた2000年度における東京都の公立学校での麻疹による出席停止者数は小学校1,758人、中学校570人、都立高校365人であり、発生者数は小中学校に多い傾向であった。しかし、学校において臨時休業措置を必要とするような集団感染事例は報告されていない。その後、学校での麻疹患者数は減少し、2005年度には公立学校における麻疹による出席停止者数は、小学校61人、中学校16人、高等学校4人となっていた。ところが、2007年1月〜8月19日までに小学校356人、中学校260人、高等学校等561人の計1,177人の麻疹報告があり、高等学校を中心に近年にない流行となった。

 1)学校における麻疹サーベイランス
2006年12月の都内私立学校での麻疹集団発生を受け、同年12月より、都立学校での麻疹の全数把握を開始した。さらに、区市町村教育委員会にも公立学校での麻疹の全数情報提供を求めた。東京都教育委員会には2007年1月下旬から発生報告が入りはじめ、都立高校では第19週に新規患者発生報告数が90名とピークになった(図1)。サーベイランス情報は、「学校感染症情報」として発行し、流行状況や対応方法を都立学校、区市町村教育委員会および東京都医師会等に周知した。

 2)臨時休業
麻疹の集団発生が見られた学校においては、学校医および保健所と連携の上、必要に応じて臨時休業措置を行った。2007年1月〜8月までに、高等学校で学校閉鎖8校、学年閉鎖2校、学級閉鎖1校。高等専門学校で学校閉鎖2校。特別支援学校で学校閉鎖2校であった。また、公立小学校で学校閉鎖3校、学年閉鎖3校、公立中学校で学校閉鎖7校、学年閉鎖5校、学級閉鎖1校の報告を受けた。

 3)学校における予防接種による対策
5月上旬までに学校閉鎖に至った都立学校のうち、緊急予防接種により接触者の麻疹発症を抑えられる可能性があった4校で、麻疹ワクチンの緊急予防接種を行った。麻疹既罹患者を除いて、全生徒および40歳未満の教職員を対象とし、学校医、地区医師会および保健所の協力を得て学校を会場として実施した。都立高等学校3校で計1,297人(うち教職員49人)、特別支援学校1校では98人(うち教職員9人)が予防接種を受けた。

5月上旬までの緊急予防接種後も麻疹流行が継続し、ワクチン在庫が全国的に不足し始めたため、5月8日に東京都教育委員会は麻疹ワクチン未接種で麻疹未罹患の児童・生徒を対象に全都立学校で予防接種を実施する方針を決定し、東京都医師会に協力要請を行った。まず、全都立学校の児童・生徒および教職員(緊急予防接種実施4校を除く)を対象に麻疹既往歴・予防接種歴の調査を行った。児童・生徒137,083人に対する調査では、110,808人から回答を得た(回答率80.8%)。未接種・未罹患者は7,722人(回答数に対する未接種・未罹患者の割合は7.0%)、接種歴等不明者は9,867人(8.9%)であった。

未接種・未罹患者の児童・生徒のうち4,121人に学校での予防接種が実施された。また、教職員5,611人にも同様の調査を行い、未接種・未罹患者403人のうち、273人に予防接種が行われた。ワクチンは学校医か地区医師会の医師が接種し、会場は学校または学校医の診療所を使用した。都立学校における未接種・未罹患者への接種の実施とほぼ同時に、東京都は私立学校および都内区市町村にも麻疹の予防接種への支援を発表し、都内の私立中学および高等学校でも予防接種が実施された。

3.おわりに
全都立学校生対象の未接種・未罹患者への接種の効果については、接種以後麻疹発生はいずれも1校に1人の報告がほとんどとなり、8月までに集団発生は認めていない。また、第25週以降の発生は明らかに減少しており、通常の流行終息の時期とも重なるが、小・中学校からの報告に比べて高等学校での減少傾向が大きく、流行抑制に寄与したと考えられる。

今回、学校でワクチン接種できたのは、未接種・未罹患者の50%程度であり、流行下にあっても接種率の向上は困難であった。今後、麻疹の予防接種をすすめていくにあたり、予防接種率をどのようにして高めていくかが、麻疹対策の課題になると思われた。

東京都教育庁学務部学校健康推進課 小黒有紀 寺西 新

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