2006年の茨城県南部における麻疹集団発生とその対応

(Vol.28 p 251-252:2007年9月号)

茨城県南端に位置する竜ヶ崎保健所管内では2006年春に麻疹の集団発生を経験した。集団発生2施設を含め、総患者数96名(最終患者発生日:7月25日)をもって8月末に終息宣言とした(図1)。判明した遺伝子型はすべてD5型であった。この間の茨城県内での麻疹発生報告は、当管内をのぞき17例であり、県内への拡大は限局的であった。

集団発生A小学校は、生徒数約 700名、患者数15名;1年生13名とその同胞2名、全員がワクチン既接種者、同一市内居住者であった。校内の麻疹ワクチン未接種未罹患者16名(2.2%)については、報告患者8名の時点で緊急ワクチン接種を実施し、その後の発症はなかった。

集団発生B中高校は、生徒数約2,200名、未接種未罹患者50名(2.3%)で、患者数は43名;ワクチン接種歴有26名、無10名、不明7名、居住地は茨城県17名、隣接する千葉県23名、その他東京都2名、埼玉県1名である。

両校の初発患者は同一市内に在住していたが、接点は確認されなかった。両校ともワクチン既接種者の罹患が多かったが、優先順位を未接種未罹患者に置いた対策、すなわち、未接種未罹患者に対する緊急接種が行われた。また、学校長の判断により麻疹疑い例も出校停止の措置が図られた。

この他、散発例は37例−保育所、幼稚園、小・中・高等学校の合わせて14施設で患者発生があった。上記2カ所の集団発生以降は、各施設では「1例出たらすぐ対応」をキャッチフレーズに保護者等への情報提供・緊急接種が行われた。疑い例の発生した施設でも同様の対応が図られた。医療従事者の発生1例があったが、二次感染は防止された。

当所の対応としては、(1)情報収集;麻疹の全数報告(管内全医療機関)、(2)疫学調査、(3)県衛生研究所での遺伝子検査の依頼、(4)情報提供、(5)施設での患者発生時のマニュアルの作成、(6)各種会議の開催(集団発生施設における対策会議、緊急会議、医師対象会議、養護教諭対象会議、全体の対策会議および報告会)、(7)当所職員への緊急接種、等を行った。これらの会議や疫学調査等について国立感染症研究所感染症情報センターおよびFETPに協力を仰いだ。

また、管内市町においては、必要に応じて感染症対策会議が開催され、住民への広報、患者発生施設での緊急接種、定期予防接種の早急な接種の勧奨、2市においては中学生以下の未接種未罹患者に対する公費の緊急接種等の対策が講じられた。さらに、医師会等による研修会、県レベルの対策会議の開催など、全県的な取り組みがなされた。

A小学校については、1年生を対象として症状およびワクチン接種歴に関するアンケート調査が行われた。製造会社別の患者発生には有意差が認められた(表1)が、限られた症例数であり、今後も知見の集積が必要であると考えられた。

B学校の全生徒を対象とするアンケート調査では、診断不明例(症例定義に該当しないが、37.5℃以上の発熱、発疹の症状が認められた者)が、麻疹の流行曲線とほぼ一致して発生していた。ワクチン既接種者では典型的な症状を呈さない場合もあり、診断不明例の一部には麻疹患者が含まれている可能性が考えられた。特に麻疹流行期においては、積極的な抗体検査、ウイルス分離、PCR法等によるウイルス遺伝子の検出等の実施が麻疹の拡大範囲を確認する上でも有用であると思われた。

終息後、8月末以降翌3月までに計6件の麻疹発生があり、そのたびに「1名出たらすぐ対応」が繰り返された。

2007年の関東を中心とする麻疹の流行の中、当所管内でも4月から約100件の発生報告があり、引き続き同様の対応が図られた。しかしながら、初発患者が未接種未罹患で発熱期間中に登校していた1例では校内の集団感染を防止し得なかった。

また、管内7市町の2006年度MRの接種率95%超は、1期は4市で、2期は2市町で達成された。

今回の経験より、麻疹排除にはワクチンの2回接種の徹底と全数報告が不可欠であると思われた。

茨城県竜ヶ崎保健所 本多めぐみ

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る