川崎市における麻しん患者全数把握調査

(Vol.28 p 253-254:2007年9月号)

本年全国的に麻しんが流行した。感染症発生動向調査によると、川崎市における麻しん(成人麻しんを除く)の報告数は、2007(平成19)年第19週(5/7〜5/13)から増加し、第22週(5/28〜6/3 )にピークを迎え、定点当たり0.24人となった。また、成人麻しんは、2007(平成19)年第11週(3/12〜3/18)から報告数が増加し、第24週(6/11〜6/17)現在定点当たり2人となった。

感染症発生動向調査では麻しんは小児科定点把握疾患であり、全症例を把握し、ワクチン接種歴の調査等を実施することは困難である。

そこで、社団法人川崎市医師会で、市内の 729医療機関を対象として、麻しん症例の全数把握調査を行い、本市の感染症発生動向調査および予防接種率のデータとの比較検討を行ったので報告する。

1.全数把握調査実施方法
市内の医療機関は、「麻しん」または「麻しん疑い」と診断したすべての症例について、市医師会へ報告する。報告対象は、2007(平成19)年5月1日以降に初診した例およびそれ以前で報告可能な例で、年齢、性別、初診日、患者住所(区別)、学校等所在地および予防接種歴の有無を報告する。市医師会事務局は、1週間ごとに報告症例をまとめ、医師会会員あてに情報還元を行う。

2.全数把握調査結果
2007(平成19)年6月25日現在、117医療機関から269例(診断名:麻しん220例、麻しん疑い42例、記載なし7例)の報告があった。診断週ごとの患者報告数は、図1のとおりであり、第21週にピークを迎えた後、患者数は減少している。年齢別患者報告数は図2のとおりであり、10代後半〜20代前半の報告数が多かった。学校等所在地は、小学生および中学生の多くは市内であったが、高校生および大学生の半数以上は市外であった。また、予防接種歴の有無は、予防接種歴ありが87例(32.3%)、予防接種歴なしが89例(33.1%)、不明が93例(34.6%)であった。

3.考察
全数把握調査結果と定点把握調査結果を比較したところ、第14週(4/2 〜4/8)〜第24週(6/11〜6/17)に、全数把握調査では269例、定点把握調査では48例の報告があった。週別の発生状況を比較すると、全数把握調査では、第21週にピークを迎えるが、定点把握調査では第22週でピークを迎えている(図1)。概ね流行状況は一致しているため、定点把握調査でも流行の把握は可能だが、正確な流行状況の把握は難しいと考えられる。また、今回の全数把握調査は、診断日ではなく、初診日の報告であったことから、ピークが1週ずれた可能性も考えられる。

さらに、年齢別患者報告数と予防接種率を比較したところ、10代〜20代前半の患者では、本市の予防接種率と患者報告数に相関関係が見られ、接種率の低い年齢では患者報告数が多く、接種率の高い年齢では患者報告数が少なかった(図2)。

4.まとめ
今回の全数把握調査は、医師会が組織を通して行ったことにより、非常に早く情報収集体制を確立することができた。また、定点把握調査では把握不可能な患者住所地および学校等の所在地を把握することができ、地域ごとの発生状況を把握することも可能であった。さらに、患者発生数に加え、予防接種歴等の情報を収集できたことは、今後の対策への重要な資料となった。一方で、今回の調査では、症例定義がはっきりしていないため、修飾麻しん等の診断について疑問が残る。また、報告期限を区切っていないため、過去の報告数が報告ごとに増加してしまうという欠点もあった。

しかしながら、今回の調査は、今後の健康危機管理体制における地域医師会の役割に新たな側面を見出せたと考えられる。

本市においては、今後、今回の全数把握調査結果を踏まえ、麻しんワクチン接種1回世代への補足的接種を含む定期予防接種の積極的勧奨、任意接種の推奨および予防接種の啓発・情報提供等による予防接種率の向上を目指し、さらに、確実な全数把握調査の実施により、患者発生状況を的確に把握し、集団発生を探知した場合には、感受性者の把握、ワクチン接種等の対策を迅速に行う必要がある。

今回の流行時には、ワクチンおよび抗体検査キットが不足し、本市の集団発生事例でもワクチン接種希望者が接種できない状況が生じたことから、麻しんワクチンおよび麻しん風しん混合ワクチンの安定的な供給の確保について要望するとともに、国、地方自治体、医療関係者、学校等関係者、ワクチンメーカー等が、国内における麻しん排除という目標に向け、協力して対策をとるべきと考える。

川崎市健康福祉局保健医療部疾病対策課
丸山 絢 瀧澤浩子 村木芳夫 塚本和秀
社団法人・川崎市医師会 宮川弘一 竹本桂一

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