2006年11月にスイス中部のルツェルン州で麻疹の発生があり、2007年7月17日までに483症例が、全国の医療機関および検査機関より報告されている。この報告数は1999年に全数報告が義務付けられて以降の8年間の平均よりも10倍も多い数となっている。また、この483症例のうちの279症例(58%)が、ルツェルン州で発生していた。
今回の麻疹発生の端緒は、ルツェルン州に住む8〜9歳の5人の小児の症例であった。彼らは同じ小学校の児童であり、発症時期は2006年11月中旬でほぼ同時期であった。その後、周辺の州にも感染が拡大し、ベルン州では2007年2月に68症例、ジュネーブ州では3月と5月に37症例、ツーク州では4月に26症例が報告されている。また、これらの発生は依然として継続している。
今回流行しているウイルス株の遺伝子型については、唾液検体から得られた27ウイルス株での検査結果より、イタリアからの輸入例と思われる1例のB3を除き、全例がD5であった。また、カナダを訪問中に麻疹を発症した日本人学生の株とほぼ同じ遺伝子配列であった。一方で、2007年春、日本の大学においてみられている大規模な発生のウイルス株の遺伝子型もD5であることより、日本からスイスへの麻疹の輸入の可能性が示唆されている。
診断は、57%の症例がIgMの陽性、PCR結果、もしくは、検査室診断された症例との疫学的な関連性により確定診断された。性別は53%が男性であり、年齢群別分布では、5〜9歳の群と10〜14歳の群をあわせると半数以上を占めた。年齢の中央値は10歳であった。ワクチン接種歴は、聞き取りが可能であった 445症例のうち、6%にワクチン接種歴があり、87%が未接種であった。転帰は43症例(10%)が入院を必要とした。合併症は、脳炎を発症した症例が4例(1%)、肺炎が29症例(7%)、中耳炎が31症例(7%)、死亡例はなかった。
スイスでは麻疹予防接種は任意接種であり、私的な保険により補償されている。MMRワクチンについては、12カ月での1回目接種と、15〜24カ月での2回目接種が行われている。補足的ワクチン接種(キャッチアップ)が、40歳未満のワクチン接種記録のない者、確実な罹患歴あるいは抗体のない者すべてに対して推奨されている。ここ数年でスイスにおけるワクチン接種率は徐々に向上してきているが、麻疹排除に向けた95%の接種率には到達できていない。1回目接種率は、2歳において86%、小学校入学時に89%、16歳において95%である。2回接種率は70〜75%となっている。このような不十分なワクチン接種率に加えて、麻疹の発生に対する適切な対応策が策定されていない(麻疹排除の国家計画がまだない)ことにより、結果的にスイスで麻疹の発生が起こっている。このような状況が続けば、WHOが目標として掲げているヨーロッパでの2010年までの麻疹排除についても見込みはうすいものと思われる。
(Eurosurveillance Weekly, 12, July 26 2007)