沖縄県では、2003年1月より麻疹発生の迅速把握および効果的対応を目的に、本県独自のサーベイランスシステムとして麻疹全数報告制度を導入している(IASR 25: 64-66, 2004)。この制度の導入後、県内における麻疹確定患者数は、2003年19例、2004年16例、2005年0例(IASR 27: 87-88, 2006)、2006年18例(IASR 28:145-147, 2007)で推移している。2007年は、1〜7月までに麻疹確定患者が10例発生しており、今回は2007年の患者情報および検出された麻疹ウイルスの解析結果を報告する。
患者発生状況:全数報告制度による2007年1〜7月(1〜30週)までの麻疹発生の報告数は、定点医療機関から32例、定点以外の医療機関から46例、合計78例であった。そのうち麻疹が確定された症例は10例、否定された症例は68例であった(図1)。
麻疹が確定した各症例について表1に示した。患者発生を発病した月別でみると、3月と4月に各1例、5月に4例、6月に4例の発生がみられ、すべて散発例であった。保健所別では県内6カ所の保健所すべての管内で発生した。年齢別では、1歳1例、10代3例、20代4例、30代1例、40代1例で、10例中9例が15歳以上の成人麻疹であった。臨床症状は、すべての症例で発熱・発疹を認めたが、ワクチン接種済みのNo.8とNo.9の症例では、発熱・発疹が同時期に出現し2日後には解熱し回復するなど比較的症状が軽い臨床経過が観察された。このことから、この2例は修飾麻疹が考えられた。
ウイルス学的検査:病原体検査は、全数把握で報告された78例のうち検体提出があった72例で実施した。検査には、医療機関で採取された咽頭ぬぐい液と血液を用い、RT-PCR によるウイルス遺伝子検出およびVero/hSLAM細胞によるウイルス分離を実施した。その結果、PCR陽性は9例、このうち麻疹ウイルスが分離されたのは4例であった。また、検体の提出がなかった6例のうち1例は、麻疹ウイルスHI抗体がペア血清で検査され、4倍以上の上昇を確認し陽性であることが医療機関より報告された(表1)。
PCRで陽性となった検体は、ダイレクトシークエンス法により塩基配列(NP遺伝子3’末端領域385bp)を決定し、相同性検索、分子系統樹解析を行った。2007年のウイルス株間での塩基配列の相同性はすべて100%一致し、遺伝子型D5型に分類された。GenBankに登録されている株との相同性検索では、台湾、カンボジア、オーストラリア、英国で分離された遺伝子型D5型の株と相同性が99.2〜99.7%であった。また、2006年の本県で分離されたD5型の株とは、相同性99.7〜100%、2002〜03年に分離されたD5型の株とは相同性96.4%であった。分子系統樹解析では、2006〜07年のD5型と2002〜03年のD5型は、異なるクラスターに分かれた(図2)。
推定感染地:麻疹確定患者10例の発病前の行動を表2に示した。このうちの8例は発病前の2週間以内に旅行歴があり、他県からの旅行者で旅行中に発病した症例が4例(No.1、No.3、No.5、No.9)、県内在住者で他県を旅行した後に発病した症例が4例(No.2、No.4、No.7、No.10)あった。これらの中には麻疹患者と接触があった症例(No.2、No.5)も含まれていた。麻疹ウイルスの潜伏期間10〜12日から推定すると、この8例は県外での感染が考えられた。一方、発病前の2週間以内に旅行歴がなかった残りの2例は、上記の麻疹患者と県内で接触があり、ニ次感染例と考えられた。
考 察:2007年3〜6月に麻疹確定患者が10例発生し、そのうち8例は発病前の行動調査により県外からの移入例と考えられた。これらの症例の推定感染地は、関東地方、四国地方、九州地方であった。2007年は、4月頃から関東地方を中心に麻疹が流行し、5〜6月には全国に波及しており、本県での患者発生もこの時期と一致していた。各都道府県からの報告によると、2007年に検出・型別された麻疹ウイルスの遺伝子型は、すべてD5型で一致していた(http://idsc.nih.go.jp/iasr/measles.html)。本県の移入例もすべてD5型で、株間の塩基配列も一致していた。このことから、同一株の麻疹ウイルスが全国各地に蔓延していった可能性が考えられた。
本県において、これまでに確認された遺伝子型の動向は、D3型(2001年)→D5型(2002年)→D5型・H1型(2003年)→D3型・H1型(2004年)→D5型(2006〜07年)と変化してきている。2006〜07年のD5型は、GenBankに登録されている株との相同性検索で、台湾、カンボジア、オーストラリア、英国の株と高い相同性を示し、系統樹上では2002〜03年までのD5型とは異なるクラスターに位置していた。このことから、2006〜07年のD5型は、国外から持ち込まれた株の可能性も考えられ、今後さらに詳細な解析が必要と思われた。
沖縄県衛生環境研究所 平良勝也 岡野 祥 仁平 稔 糸数清正 中村正治
沖縄県福祉保健部健康増進課 糸数 公 石川裕一 譜久山民子
沖縄県北部保健所 比嘉啓子 伊野波凉子 安冨祖忠章 国吉秀樹
沖縄県中部保健所 友利邦子 野村直哉 新垣志乃 松野朝之
沖縄県南部保健所 中村孝一 東 朝幸
沖縄県中央保健所 比嘉恵美子 浦川愛加 又吉富貴子 宮川桂子 島袋全哲
沖縄県宮古保健所 池原健二 平良ちあき
沖縄県八重山保健所 照屋邦男 川上典子 山川宗貞
沖縄県はしか"0"プロジェクト委員会 知念正雄