2006秋冬シーズンに流行したノロウイルスGII/4株のゲノム解析

(Vol.28 p 279-280:2007年10月号)

背景:ノロウイルスは、わが国においては秋から冬季にかけて流行する感染性胃腸炎の原因ウイルスである。昨秋冬季(2006/07シーズン)は、過去最悪の症例数が報告された。我々は、流行の原因となったウイルスの起源、伝搬様式、分子の特徴などを知るために、国立感染症研究所ウイルス第二部、および都道府県の衛生研究所と共同で、ノロウイルスの全ゲノム解析を行った。

対象と方法:2006年10月〜2007年1月に、11の都道府県で発生した55例のノロウイルス感染者から得られたウイルスのゲノムを解析した(2検体は正確な採取日不明)(図1)。各都道府県の衛生研究所で異なる時期に収集した糞便検体を出発材料とし、ウイルスRNAを抽出した後、GII/4株特異的プライマーを用いてcDNAを合成した。相互に重複するノロウイルスゲノム断片(約5.2kbpsと2.5kbps)をPCRにより増幅し、精製した後、ABI3730を用いてシークエンシングした(図2)。

結果と考察:37の糞便試料からGII/4ゲノム全長(約7.5kbps)の塩基配列を得た。ウイルスの構造蛋白VP1のshell領域の系統樹解析を行った(図3)。その結果、2006年秋冬期にわが国で流行した株の大半は、(1)2006年初頭に世界各地で同定された英国株、EU株、香港株と近縁で、これまでにわが国で流行した株とは起源が異なること、(2)このウイルス株は春期(5月)にすでに富山に存在し、近縁のウイルスが、2006年秋冬期に全国の異なる地域に広がったこと、(3)一昨年、愛媛、堺、千葉で流行したウイルス株は、全国的な流行の原因にはなっていなかったこと、が明らかになった。ORF1、2、3領域、およびゲノム全長で系統樹解析を行い、同様の結論を得た。今回の株に特徴的な変異は、ORF1、ORF2(VP1)、ORF3(VP2)遺伝子産物のそれぞれに検出された。VP1構造蛋白の変異は、最も外側に位置するループ(P2領域)に集中して生じており、免疫感受性や細胞指向性の変化が疑われる。このウイルス株は、2006年に世界の異なる地域でノロウイルス感染のパンデミックを引き起こしたと推察される。

謝辞:糞便試料の収集に、以下の先生にご協力いただきました。吉澄志磨先生(北海道立衛生研究所)、三上稔之先生(青森県環境保健センター)、斉藤博之先生(秋田県健康環境センター)、植木 洋先生(宮城県保健環境センター)、滝澤剛則先生(富山県衛生研究所)、小林慎一先生(愛知県衛生研究所)、田中智之先生、内野清子先生(堺市衛生研究所)、野田 衛先生(広島市衛生研究所、現国立医薬品食品衛生研究所)、近藤玲子先生(愛媛県立衛生環境研究所)、船津丸貞幸先生(佐賀県衛生薬業センター)、松岡由美子先生(熊本市環境総合研究所)

国立感染症研究所病原体ゲノム解析センター
本村和嗣 中村浩美 守 宏美 横山 勝 神田忠仁 佐藤裕徳
国立感染症研究所ウイルス第二部
岡 智一郎 Hansman Grant 片山和彦 武田直和

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