ウイルス性胃腸炎に合併したhemorrhagic shock and encephalopathyの2例

(Vol.28 p 292-293:2007年10月号)

はじめに:小児の急性脳症は、多くはウイルス感染症の経過中に急に発症し、発熱、意識障害、多くはけいれんを伴い、死亡や重度神経学的後遺症を残す、重篤な疾患である。海外からの報告は乏しく、日本人に多いと考えられている。急性脳症はいくつかの疾患に分類されるようになったが1)、異なったウイルスが共通する病像をとることから、「インフルエンザ脳症」、「HHV6脳症」のようなウイルスによる分類は適切ではなく、インフルエンザに伴った「急性壊死性脳症」、突発性発疹症(HHV6)に伴った「けいれん重積型急性脳症」のような記述が望ましいと思われる。今回、ノロウイルス性胃腸炎に合併したhemorrhagic shock and encephalopathy(HSE)の2例について報告する。

症例の紹介 (
(1)症例1 ノロウイルス(GII/3)によるHSE
1歳8カ月男児で、2005年12月下旬某日、10回以上の嘔吐あり、近医受診。夜より40℃の発熱、翌朝10時、覚醒せず下肢硬直を認めたため再受診するも、様子観察の指示で帰宅。その後も覚醒しないためA病院に入院となった。入院時Glasgow coma scale (GCS) 1-1-1、体温39.9℃、血圧88/48mmHg、心拍192/min、呼吸数66/min、除脳硬直肢位であり、頭部CTで脳浮腫認め、血糖3mg/dlと低下していた。血糖補正後四肢の動きを認めるようになったが、脳症を考慮して脳圧降下剤・ステロイドパルス療法を開始された。翌朝痙攣あり、以後瞳孔両側散大、頭部CT上脳浮腫の進行を認めたため、集中治療目的にて当院転院となった。転院後人工呼吸、マンニトール投与などを行ったが、脳浮腫は改善せず、気管切開を行い、在宅で人工呼吸を続けている。

(2) 症例2 ノロウイルス(GII/4)によるHSE
1歳6カ月女児で、2006年11月中旬今シーズン2回目のインフルエンザ予防接種を受けた。4日後、兄とともに、嘔吐があり、夕方になって、呼名反応なく、近医を受診(37.6℃)、B病院に入院、夜には39.5℃となった。血糖が17mg/dl、アンモニアが253μg/mlであったが、輸液により速やかに正常化した。翌日C病院転院となる。その後も意識障害が続き、けいれんを繰り返し、第6病日当院へ転院となった。頭部CTで大脳全体の浮腫および皮髄境界不明瞭。頭部MRIでは両側尾状核および大脳皮質高信号を認めた。脳保護療法(低体温療法およびペントバルビタール持続投与)、ステロイドパルス療法、γグロブリン療法、シクロスポリン療法を行った。発症後6カ月を経過し、経口摂取は可能であるが、四肢麻痺、難治性てんかんの重度後遺症を残している。

血液・尿の検査結果:血液検査では2症例とも発症時に白血球数が20,000程度に増加し、低血糖がみられたが、測定された症例ではケトン体は高値であった。ショック状態のための高乳酸血症、症例2では高アンモニア血症があったが、一時的で、短期間で正常化している。肝機能障害は両例でみられたが、トランスアミナーゼで200〜300IU/ml以下の軽度であった。CKは2例とも1,000IU/ml以上を示した。血小板数は症例1で低下したが、症例2は正常範囲であった。FDP値も高くなく、DICはなかった。

2例とも島根大学医学部山口清次教授により発症時の検体や出生時の血液濾紙をタンデムマス分析装置で調べたが、脂肪酸酸化障害などの代謝異常は否定された。

画像所見:症例1では発症早期に大脳皮質の著しい浮腫がみられ、CTで低吸収となり、FLAIRで高信号、DWIでも高信号となっており、cytotoxic edemaを示唆する所見である。症例2では大脳皮質はFLAIRで基底核が高信号、大脳皮質も軽度高信号であり、第16病日には両側前頭葉、頭頂後頭葉域にlaminar necrosis像がみられる。これらの変化は、著者が予後不良であったインフルエンザ脳症の画像による病型分類案で述べた2)、hemorrhagic shock and encephalopathyの示す画像変化の特徴と合致するものである。

考察:HSEは乳幼児に多く、典型例は睡眠中に発症し、高熱、ショック状態、下痢、意識障害、痙攣がみられ、短時間で昏睡となる。画像変化は少し遅れて半日〜3日後には出現し、CTでは大脳皮質と白質の分離不良と低吸収、浮腫がみられる。MRI 拡散強調画像(DWI)では早期から両側対称性に大脳皮質に広汎な高信号がみられ、慢性期にはMRIのT1強調画像でcortical laminar necrosisが明瞭となる。基底核にも病変が生じうるが、視床の異常は少ない。低血糖や高ナトリウム血症も多い。大脳皮質の異常を反映して痙攣重積が多く、反復するのも特徴で、脳波上electrical stormと表現される、棘波が多発するパターンがみられる。LevinによるHSEの診断基準にはショック、肝・腎機能障害、DICなどの多臓器障害の存在が含まれる3)が、我々は、多臓器障害がなくとも類似の脳障害は生じ、脳画像所見からのHSEの診断が重要であると考えている。

ノロウイルス感染に合併した発症時に低血糖がみられた急性脳症の軽症例が報告されている4)。また、2006年初冬に日本で大流行したノロウイルス感染に伴った重篤な急性脳症の発症はいくつか知られている。

 参考文献
1)Mizuguchi M, et al ., Acta Neurol Scand 115(Suppl. 186): 45-56, 2007
2)塩見正司, 小児内科 35: 1676-1681, 2003
3) Levin M, et al ., J Pediatr 114: 194-203, 1989
4)Ito S, et al ., Pediatr Infect Dis J 25(7): 651-652, 2006

大阪市立総合医療センター感染症センター 塩見正司
同小児神経内科 木村志保子 九鬼一郎 岡崎 伸 川脇 寿
同小児救急科 石川順一 外川正生

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