カンピロバクター・細菌性赤痢・ジアルジア・クリプトスポリジウム重複感染による旅行者下痢症の1例

(Vol.28 p 298-299:2007年10月号)

4種類の病原体に重複感染した旅行者下痢症の1例を経験したので報告する。

患者は24歳の男性で、2007年7月23日〜8月13日までネパール(カトマンズ)・インド(ラクソール、バラナシ、アグラ、デリー)・台湾を旅行したバックパッカーである。渡航前にトラベルワクチンの接種なく、マラリア予防内服もしていなかった。渡航数日後から下痢が始まったが、8月9日から症状がひどくなり1日10回以上の米のとぎ汁様の下痢が認められるようになった。現地ではミネラルウォーターを飲んでいたが、食事は屋台で食べ、フルーツも食べていたとのことである。

帰国後も下痢が続くため8月17日当院救急外来を受診した。血液検査で大きな異常なく、水分摂取可能、全身状態良好であったため細菌検査用の便を採取され帰宅となった。8月20日に感染症科外来を受診した。便培養でCampylobacter sp.が検出されたが、1週間以上続く下痢のため寄生虫感染を疑い検便を行ったところ、ジアルジアのシストとクリプトスポリジウムのオーシストが検出された。ジアルジアに対してメトロニダゾール750mg/日、7日間の治療を開始した。その後、細菌検査室よりShigella sonnei が検出されたとの連絡があり、8月23日からレボフロキサシン400mg/日、5日間の治療を追加した。9月6日に再診し、細菌性赤痢治療後の陰性確認検査を提出中である。依然として下痢があり検便を行ったところ、ジアルジアのシストが検出されている。クリプトスポリジウムは陰性化していた。9月10日からジアルジアの再治療を開始した。これまでにデング熱、マラリア、腸チフス・パラチフスを疑わせる症状は出現していない。

熱帯病に無防備な若者の渡航者が増加している。本症例では病原体に汚染された屋台の食事やフルーツから経口感染したと推定される。同様の経路でウイルス性肝炎(A・E型)などに感染していることも考えられる。これらはまだ潜伏期であるため、症状の出現に注意して経過観察を行っていく予定である。昨年、私たちはインド・ネパールで感染した腸チフス・パラチフス症例を4例経験した。いずれも20〜30代の男女で、そのうちの2例は腸チフスにカンピロバクター・クリプトスポリジウム・E型肝炎を重複感染した例、腸チフスにジアルジアを重複感染した例であった。渡航者への熱帯病への注意を喚起する必要があるとともに、医療従事者は重複感染を見逃さないよう検査を進め、経過観察することが重要であると考える。

東京都立墨東病院感染症科 中村(内山)ふくみ 中村 造 古宮伸洋 大西健児

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