世界のワクチン株由来ポリオウイルス(VDPVs)−2006年1月〜2007年8月におけるアップデート

(Vol. 28 p. 328-329: 2007年11月号)

2000年以降、特に野生株ポリオウイルス(WPV)の世界的な伝播の遮断に引き続いて、VDPVsによるポリオ症例とポリオ集団発生のリスクを減らし、管理する包括的な戦略の必要性が高まっている。この戦略の中心は、経口ポリオワクチン(OPV)の接種率が低い地域でポリオの流行が起きる可能性と、抗体を産生できない一部の免疫不全者が長期にウイルスを排出する可能性があることを十分に理解することである。

VDPVsは、より長期のウイルス増殖や伝播を反映した遺伝子の性状(主要なウイルス表面抗原蛋白VP1において、対応するOPV株から1%以上の塩基置換を有するものとして、運用上は規定される)を有することにより、大多数のSabinワクチン株由来ポリオウイルスと区別される。世界ポリオ根絶イニシアティブ(GPEI)では、現在VDPVsを3つのカテゴリーに分けている。

 (1)OPVの接種率が不十分な地域で出現する伝播型VDPVs(cVDPVs)
 (2)先天性免疫不全と関連したVDPVs(iVDPVs)
 (3)臨床的、疫学的、ウイルス学的データが不十分なため分類があいまいなVDPVs(aVDPVs)

(1) cVDPVs
カンボジア:2005年11月〜2006年1月の間に、3型cVDPVに関連する2例がプノンペンで検出され、補足的ワクチン接種活動(SIAs)が行われた。

ミャンマー:1型cVDPVに関連するポリオ4例がミャンマーで発見された。分離株は2005年半ばから2年にわたって伝播しているVDPVsと特定された(VP1領域に1.5〜 2.2%の塩基置換を有する)。第1例の接触者7例がこのcVDPVに感染していることが確認された。2006年以降、単価1型経口ポリオワクチン(mOPV1)を用いたSIAsが現在も行われている。

ナイジェリア:2006年1月1日〜2007年8月17日まで、2型cVDPVに関連する69例のポリオが北部の州において発生した。さらに、2型Sabin OPV株から0.5〜1.0%の塩基置換をVP1領域に有するVDPVsと同じ分子系統に属する2型ウイルスが24株検出された。cVDPVsの少なくとも46株(49%)が、1型および3型WPVが伝播しているKano州より採取された。 2,643塩基からなる構造蛋白領域の全長シークエンスに基づいた分子系統解析により、少なくとも7つのcVDPVsの分子系統が明らかになり、2005年と2006年にわたって、複数のcVDPVs伝播経路が独立して出現したことを示している。VDPVsの循環は、これまでのところ2006〜07年に野生株が循環した北部州に限定している。5種類のlineageの伝播は少なくとも2007年7月まで続いており、48株は2007年に検出された。SIAsは異なるワクチンを用いて、2006年と2007年を通して行われ、VDPVsとWPVの発生があった州で、3価経口ポリオワクチン(tOPV)、mOPV1およびmOPV3を使ったSIAsが行われてきた。

(2) iVDPVs
中国:安徽省のX染色体性無ガンマグロブリン血症を有する小児が、2003年秋に3回のOPVを受け、2005年8月に麻痺を発症した。同年10月〜翌2006年2月にかけて、便検体からは2型および3型のVDPVsが検出された。免疫グロブリンも投与されたが、効果は明らかでは無く、2006年4月に肺炎で死亡した。12人の接触者の誰からもポリオウイルスは検出されなかった。

エジプトおよびクウェート:クウェートに住む、1人の重度複合免疫不全のエジプト人小児が3型iVDPVを排出しているのが発見された。エジプトに住む別の免疫不全児も異なる3型iVDPVに感染し死亡した。

イラン:1995年と2005年に2型iVDPVsが検出された急性弛緩性麻痺(AFP)発症者が報告されたが、自然治癒した。2006〜07年にかけて、免疫不全を有する3人のAFP患者からiVDPVs排出が検出され、うち2人が死亡した。X染色体性無ガンマグロブリン血症患者における3型iVDPV感染が確認されたが、21人の接触者からはウイルスの排出は検出されなかった。

シリア:2006年に液性免疫と細胞性免疫不全のAFP患者が診断され、2型iVDPV陽性であった。

(3) aVDPVs
中国:2006年6月に1型VDPVs が、広西省の免疫状態が正常のAFP 患者および7名の接触者から分離され、分離株の塩基配列から、限局された地域に伝播したVDPVと考えられた。2006年8月には、3型VDPVが上海の健康な患者から分離された。2007年に1型aVDPVがAFPの小児から分離された。

イスラエル:イスラエルは1987〜88年の1型WPVの集団発生以後、ポリオウイルスの環境モニタリングを行っている。テルアビブの下水から2群の2型aVDPVsが検出された。最初の群は1998年に発見されたが、2006〜07年にかけては、VP1との変異が14%にもおよぶ高度に変異した株が検出された。これらのVDPVsの由来は不明であるが、分離株の遺伝子の性状はcVDPVsよりiVDPVsに類似していた。

(WHO, WER, 82, No.39, 337-343, 2007)

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