1.はじめに
本県から中国へ観光旅行に出かけたツアー参加者のうち数名が、帰国後に細菌性赤痢に感染していたことが判明した事例を経験したので、その概要を報告する。
2.経過と対応
2007年8月28日〜9月2日までの間、中国へ観光旅行(北京2泊→敦煌→西安→上海)に出かけたツアー参加者15名(参加者14名・添乗員1名)のうち1名が、帰国後2日目に下痢、発熱により医療機関を受診した。医療機関で検査した結果、細菌性赤痢と診断され、主治医から村山保健所に患者発生届が出された。村山保健所では、患者および旅行会社に連絡をとり、ツアー参加者15名の確認を行ったところ、全員が県内の在住者であった。村山保健所では15名全員の健康観察を行い、有症者には医療機関受診や最寄りの保健所での健康診断(検便)を勧奨した。帰国直後に症状のあった1名(健康観察時点では症状消失)の検便を行ったところ、細菌性赤痢であることが判明した。また、軟便が続いていた1名も医療機関を受診し、細菌性赤痢と診断された。
複数の細菌性赤痢患者が発生したため、村山保健所では、ツアー参加者全員の検便を実施した。管轄外の居住者1名について、管轄する保健所に調査および検便を依頼したところ、細菌性赤痢であることが判明した。さらに、村山保健所で行った検便の結果、新たに1名から赤痢菌が検出された。この2名は旅行中もしくは帰国直後に下痢などの症状があったものの、回復傾向だったことを理由に、医療機関を受診していなかった。
患者らから分離した赤痢菌の5株は、いずれも生化学的性状および血清型から典型的なShigella sonnei I相で、PCRによるinv E、ipa Hもすべて陽性であった。さらに、衛生研究所においてこの5つの菌株の遺伝子学的関連性を確認する目的で、パルスフィールド・ゲル電気泳動を実施したところ、制限酵素Xba I切断パターンは5株とも一致したことから、今回の5名の患者らは、共通の感染源により感染したものであると推察された。
なお、5名の患者らと接触のあった家族等17名について検便を実施したところ、結果はすべて赤痢菌陰性であり、二次感染は認められなかった。
3.まとめ
中国への観光旅行に出かけたツアー参加者15名中5名が、細菌性赤痢(S. sonnei )に感染していたことが判明した。
今回の事例の特徴としては、(1) 旅行参加者が、帰国時に下痢症状があった旨の検疫申告を行っていなかったこと、 (2) 患者らは、症状が比較的軽く自然軽快したため、医療機関を受診していない者がいたこと、 (3) 患者らの年齢が比較的高いこともあり、従前の伝染病予防法や二類感染症で対応した入院勧告や措置のイメージを強く持っていたため、聞き取り調査に苦慮したこと、などがあげられた。
以上のことから、本事例では、幸いにも二次感染は起きなかったものの、医療機関や検査機関を受診するまでの間に、感染拡大の可能性があったことが考えられた。海外の研修や旅行などで出掛ける機会が多くなっている昨今、輸入感染症対策について広く啓発を行うとともに、検疫法や感染症法のより一層の周知徹底を図り、感染拡大の防止に努めることが重要であると考えられた。
山形県村山保健所 高橋加寿子 近野睦子 植松すみ子 山口一郎
山形県衛生研究所 金子紀子 保科 仁(山形県感染症情報センター)