肺炎球菌によって引き起こされる重篤な感染症には、肺炎、髄膜炎、発熱性の菌血症などがある。また、中耳炎、副鼻腔炎、気管支炎などの軽症の感染症も引き起こす。2005年のWHOの推計によると、毎年160万人が肺炎球菌による疾患で死亡しているとされている。そのうちの70〜100万人は5歳未満の小児であり、その大半が途上国に住んでいる。HIV感染やその他の免疫不全を伴う状態は、肺炎球菌によって引き起こされる疾患へのリスクを増大させ、一般的に使用されている抗菌薬に対する耐性増加の問題は、緊急のワクチン接種の必要性を示している。
現在国際的には、7価のポリサッカライド結合型ワクチン(PCV-7)と23価の血清型をカバーする非結合型のポリサッカライドワクチンが市販されている。23価の肺炎球菌ワクチンは、年長の小児や成人のために一義的に開発されたものであり、2歳未満の小児に対しては認可が下りていないことから、本稿においては議論しない。PCV-7に含まれる血清型は、西側先進国では、小児の肺炎球菌による侵襲性疾患に関連する血清型の65〜80%をカバーする。PCV-7は広く受け入れられており、安全性も高いとされる。また、同ワクチンは粘膜免疫を刺激し、鼻咽頭での保菌を減少させることから、集団免疫効果が観察されている。PCV-7はすべての年齢層に対して高度に免疫原性があるが、現在のところ、12カ月未満児を含む5歳未満の児に対してのみ認可が下りている。小児においては、初期免疫後の侵襲性疾患に対する防御可能期間は少なくとも2〜3年といわれてきたが、それよりも実際にはかなり長いことが期待されている。2007年1月までに70カ国以上において登録されており、十数カ国では国家の予防接種計画に組み込まれている。
肺炎球菌感染症による年少の小児に対する非常に大きな疾病被害があることと、PCV-7の安全性と有効性を考慮した結果、WHOの見解としては、このワクチンを国家の予防接種計画に組み込んでいくべきであるとし、特に5歳未満の小児死亡率が1,000出生当たり50以上の国や、年間5万人以上の小児の死亡が確認されている国においての使用を推奨している。
ワクチン接種のスケジュールとしては、ほとんどの国々において1歳までに3回接種として行われている。乳児期の2回の接種に加えて1歳代に3回目の接種を行う国もある。3回目の接種を1歳代にすることで、麻疹ワクチンと同時の接種を実施できるかどうかも今後の研究によって示されるべきである。このワクチンを定期接種として初めて導入する国は、ワクチン未接種の12〜24カ月児およびリスクの高い2〜5歳児に対する1回のキャッチアップ・キャンペーン(追加的なワクチン接種活動)を実施すべきかもしれない。
また各国は、肺炎球菌感染症についての国内でのサーベイランスの強化を推進していくべきである。これによって、肺炎球菌感染症の通常レベルの閾値を設定し、ワクチン接種によってもたらされる効果を測ることができる。定期接種として導入を開始する途上国やHIV感染率の高い国、または肺炎球菌感染症のリスクが増加していることが知られる状況においては特に重要である。
結合型ワクチンの使用によって、流行する肺炎球菌の血清型が著明に変化する可能性について注意深い観察が必要である。しかしながら、ワクチンによって引き起こされうるそのような現象が、侵襲性の肺炎球菌感染に関してこれまで大きな問題になったことはない。
(WHO, WER, 82, No.12, 93-104, 2007)